老虎動く!
甲斐が制圧されてから一週間以内を各陣営の視点からへいこうして書いてます。
今川氏真が織田信長の妹お犬の方と結婚した為、不要となった北条氏康の娘早川殿は、秘密裏に屋敷を包囲され殺されようとしていた。
「姫様、屋敷は囲まれています!」
女中が叫ぶが早川殿は「私は夫に裏切られたのですね…これが運命ならばいたしかたありません」
屋敷の周りからは誰も逃げられないように火矢が放たれる。火に炙り出されて出てきた者は次々に今川の手の者に殺されて行く。そして確実に首をとるために兵達は突入していく。
「いたぞ!北条の姫だ!首を取れ!」
早川殿が斬られそうになった際、近くに居た老兵が味方の筈の兵達を斬り捨てる!
備前長光の大太刀を扱うその人物は髪は白いががっしりとしており太刀筋が鋭い!眼光は鋭くまるで虎のようであった。
すると周りの兵も20名程老兵に続き、早川殿を何処かに連れ去ったのであった。
兵達は早川殿は焼け死んでしまったと報告し、背丈の似た女中の焼死体を今川義元に差し出した。
今川氏真が何故自分の妻をかばう事なく死なせたかと言えば、父である今川義元に逆らえないのと、織田家は皆美形揃いで何より今川氏真はロリコンだった為、自分好みの幼女を手に入れたなら早川殿は最早邪魔でしかなかったのである。
織田信長の恐ろしさは今川氏真の好みや嗜好を調べ上げ、すぐ下の妹のお市ではなく、さらに年下のお犬の方を嫁がせたところだ!
そして早川殿は老兵達に保護されて甲斐との国境に向かっていた。
「命を助けていただきありがとうございます。貴方様はいったい?」
「ふん!あまりにも外道だったので虫酸が走り気まぐれで助けただけじゃ!」
眼光の鋭いがっちりとしたこの老人の正体は、武田信玄の父であり、武田義信の祖父である武田信虎その人であった。
駿河での出来事は勿論、甲斐での出来事も自身の息子を間者として送りこんでいた為把握していた。
甲斐で武田義信が不穏な動きをしているのは薄々感づいていたがまさか武田信玄が不覚をとるとは思っていなかったのだ!
「義信の愚か者め!これでは儂と晴信が芝居をうったのが台無しじゃ!」
表向きでは武田信玄が不仲で廃嫡しようとした武田信虎を駿河に追放した事になっていたのだが、これは信虎と信玄が示し合わせて行った芝居であった。
あの時甲斐の国は国人の力が強く、武田家は大名と言うよりはその中の頭一つ抜けた領主でしかなかった。その為、裏切りや命令無視は当たり前で甲斐一国も思い通りにならなかった。
その為、嫡男である武田信玄に才能がある事を見抜いた信虎は、若き信玄に辛く当たりながらも、妻であり、信玄の母である大井の方を通して真意を信玄に伝えていた。
信虎は自身が犠牲になる事で、戦国大名としての強い武田家を作る為の礎となることにしたのだ。
信虎にとって大切なのは武田家の家名第一なのである!
信虎は様々な理由で家臣や国人を粛清して武田家の力をつけ甲斐国内での武田家の地位を完全なものにしたのである。
また甲斐国は貧しく、飢えや病気も多かった。その為家臣や民の不満も強く借金もあった!
そこでそれを全て己の咎として信虎が背負って信玄に甲斐を任せて自身は身を引いたのである。
信虎の狙いは的中し、甲斐武田家は信玄の元に団結し、信濃を手中に収めて周囲から恐れられる大国となったのだ!
信虎は信玄の活躍や孫の活躍を聞くのが何より嬉しかった。
ただ信玄と信虎の違いは、信玄は嫡男として武田義信を立ててきたが、信虎からみるとどうしても愚将である。それに比べると信濃にいる武田勝頼はどうだ?あの若さであの優秀さ!?
実は忍びで武田勝頼の噂を聞いた信虎は海津城まで訪れたことがある。
その時、海津城やその城下を見た際に舌を巻いたのだが、勝頼の姿を見て驚いた!儂の若い頃にそっくりなイケメンだと!?若いが目力もありあの堂々とした武者ぶりに信虎は惚れ込んでしまっていた。
そして此奴は晴信以上だと確信していた。
武田義信の元に自身の息子を潜り込ませたのは、時期を見て武田義信を暗殺して武田勝頼を当主にする為であった。
勝頼なら天下も夢でないと確信していたからだ…その為ならば、鬼にも何にでもなると!
「さて孫に逢いにいくとするかのう!あれが生きていては勝頼もやりにくかろうて!」
ニヤリと笑う信虎の目は正に虎そのものであった!
今川義元は老いた虎の尻尾も踏んでしまっていたのだ!
現在甲斐では怪我と病を理由に武田義信は表に出なくなり、枯骨と名乗る黒衣の宰相と飯富虎昌が支配しているらしい。
信虎は甲斐がすでに今川領になったことを正確に把握していた。
そして駿河の今川義元は相模の北条氏康に木箱を3つ送りつけていた。
北条氏康は家臣を集めその今川義元から送られてきた物を披露することにした。
使者は援軍のお礼とこれからの両家の未来の為の贈り物だと告げ主君今川義元より家臣を集め皆の前で披露した後に手紙を読んでくだされと念押しされた。
北条氏康は上機嫌で相当高価な茶器か?それとも金か?などと喜び使者に褒美を与えてくれぐれも治部殿へ宜しくお伝えくださいと丁寧に城門まで送った。
そして家臣を集め「皆の者!今川家より今回の援軍の礼が届いた!皆の前で披露して欲しいとのことだ!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
家臣達から歓声が上がる!
大道寺政繁らが皆の前で箱を開ける…
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?
その場で空気が凍りついた!大道寺政繁はそれを掴んだままワナワナ震えている!?
「こ…これは若君!?」
大道寺政繁が手にしているのは変わり果て塩漬けにされた北条氏政の首であった!?
他の者が急いで他の箱を開けるとそこには塩漬けにされた松田憲秀の首と焼け焦げた女性の首が出てきた!
怒りのあまり震える北条氏康とあまりの事に言葉が出ない家臣達であったが、手紙を読むと…
甲斐は既に手中に抑えたこと、そして北条氏政、松田憲秀、早川殿の最後、織田との同盟などと共に宣戦布告が書かれていた!
北条氏康は血圧が上がり過ぎて眼圧で血の涙を流しながら震えている!
「おのれぃ!今川義元!貴様だけは!貴様だけは許さぬぞ!皆の者、今川との戦さだ!小田原城に兵を集めよ!」
今川義元は怒り狂う獅子の尻尾を踏んだのである!
北条氏康は戦国一と言っていい程の家族愛の持ち主であった!
しかし…冷静に考えればこれは北条家を誘き出す為の罠だと気づく筈なのだが…北条氏康は怒りで我を忘れていたのであった…
まだまだ勝頼達は不利になっていきます。しかし手負いの猛獣の恐ろしさは…狸はせいぜい怒ってロー○ンの悪魔のオ○○リのようになるくらいだと思いますが…