最上義光
桶狭間の戦いの年です。史実なら織田信長が勝ち今川義元が戦死します。
季節は流れ春になっていた。
出羽国では最上義守の嫡男の白寿が元服を済ませ最上義光と名を改めていた。
勝頼は元服の祝いにと明智光秀に命じ、アイヌを通じて樺太アイヌから樺太マスを何とか手に入れ清酒と共に最上義光に贈っていた。
これには最上義光も大喜びで頭まで残さず平らげたと言う話には流石の勝頼も苦笑いだ。
「まさかここまで鮭で歓喜するとは苦労して手に入れた甲斐があったというものだ」
最上義光よりお礼にと出羽地酒と鯨の肉を塩漬けにしたものと手紙が送られてきた。
手紙には元服の祝いの御礼と力強い文字で、我が友よ、其方が危機に陥った際には単騎でも必ず駆けつける!
勝頼は笑みがこぼれる。本当に熱い男だと!
「頼もしい限りだな!」
未来の歴史では謀将や腹黒の悪者に書かれることも多いが彼は間違いなく山形県の英雄だ。
伊達政宗や彼の母である義姫との絡みなどがあり、どうしても伊達政宗視点の物語が多い為、伊達政宗は正義で最上義光は悪の構図が出来上がってしまっているのだ。
だが、あくまでも伊達政宗視点での目障りな存在が最上義光であり、最上義光が悪なわけではない!
義姫の伊達政宗暗殺未遂や弟、小次郎の粛正に関しても家来たちが騒いで盛り上がってしまった説や豊臣秀吉から伊達家を守る為に伊達政宗と義姫が話を創作した説や小次郎生存説もあるのだ!
やはり歴史とは勝者の歴史なのである。
そう、だから誤解も多いのだが未来の時代でも山形県の人々から慕われるのは彼にそれだけの魅力があるからだろう。
勝頼は、最上義光は心から信頼に値する友だと思った。そして勝頼も彼の危機には単騎でも駆けつけようと心に誓ったのであった。
そして桜の咲いた頃、勝頼は家臣達を集め花見を開くことになった。
高遠や諏訪の桜も綺麗だが、勝頼の海津城の周りの桜も綺麗だった。
前田慶次郎に早朝から餅を搗かせて辛味餅と大福を作ってもらう。
前田慶次郎はモテる男で彼の屋敷には沢山の女中がいる。
ただ勝頼だけは真実を知っていた。前田慶次郎は売られた女や行く宛の無い女や拐われて来た女達を保護して、女中として雇うことで彼女達が生活に困らないように助けているのだということを!
ただ純粋にモテるのは間違いないが…
勝頼はといえば父である武田信玄に似てしまった為、やや目つきが鋭いので女にはさっぱりモテないのであった…
前田慶次郎はからかうように笑顔で勝頼に話す。
「某は勝頼様と違いモテますからなあ!手伝ってくれる女子は山程おりますからなあ!お任せくだされ!」
ワッハッハと慶次郎は豪快だが爽やかに笑う!
「モテないは余計だ!ほっとけ!」
風魔葵や望月千代女には春の山菜を採りに行かせている。護衛は上泉信綱なので冬眠から覚めた熊が出ても大丈夫だろう。
この時期は、タラの芽やふき、ぜんまい、うど、筍、土筆、分葱、菜の花、わらびなど種類も豊富だ。
山県昌景には鯛やあさり、鯵など春が旬の魚を手配してもらっている。
勝頼と馬場信春、北条千代丸は渓流で朝早くから釣りだ。山女魚に岩魚、ナマズに鯉を釣り上げることに成功した。
意外にも馬場信春が釣りが上手い!
真田昌幸は日中から夜に掛けての花見、宴会の為会場設営を差配して貰っている。
雑賀孫市には鹿を仕留めて来るように頼んである。
今回は助五郎がたまたま訪れており桜の下で茶をたててくれるというので、赤い敷物を敷き赤い傘をたてて茶をいただく。
助五郎の茶の湯の動作は素晴らしく勝頼もその茶の美味さに驚く。
横では葵がお茶とともに慶次郎がついた大福を幸せそうに頬張っている。
「こんな和やかで平和な日々がいつまでも続いて欲しいですね勝頼様!」
「そうだな…戦ささえ起きなければな」
勝頼は微笑むが勝頼はわかっていた。今年はあの桶狭間の戦いの年である。嫌でも世の中は動く。
現に今川義元は駿府に4万近い兵を集めている。何故途中で合流ではなく駿府へ集まるのかと勝頼は疑問に思っていたが、4万の兵を本拠に集めることで領内や周りの大名にその力を誇示する為だろうと思ったのだが何かが胸の奥で引っかかっていた。
同盟国である北条家からは北条氏政を大将に重臣の松田憲秀が補佐をして2000の兵で援軍に向かうこととなっており、甲斐からも武田義信を総大将に2500の兵を出すことになったらしい。
多分、父である武田信玄は北条家より多い人数を出すことにより北条家より武田家の方が上だと世間に示したかったのだろう。
全く見栄っ張りだ!
史実では桶狭間の戦いは永禄三年五月十九日だがこの世界では予定日が速まりそうだった。
勝頼は胸の奥で引っかかっているものが何かは分からなかったが、自領内は軍備を整えておこうと考え、越中と越後にも今川義元の動きを伝え大きな戦さが起きるので用心の為、軍備は整えていた方が良いと使者を出した。
「史実通り、織田信長が勝つか?それとも今川義元が勝ち上洛軍を進めるのか?」勝頼にも分からなかった。
皆が茶を楽しんでいる際に勝頼と葵、千代女は料理に入った。
山女魚や岩魚は炭焼きに、馬場信春が焼いてくれると言うので任せた。
雑賀孫市は鹿を解体している。ツノと毛皮は助五郎が買い取ってくれる。
筍は筍ご飯と湯がいたものを小魚と醤油で煮付けた。山菜はお浸しと天ぷらだ。なまずも泥抜きをして天ぷらに、鯛や鯵は刺身に、鯉はあらいと鯉こくにした。酒好きが多いので勿論蕗味噌も作った。焼き味噌にしても美味い。
鹿肉はレバーはレバ刺しのユッケに、肉はステーキとして出した。
あさりは味噌汁と酒蒸しと山菜を放り込んだあさり鍋にした。
勝頼は越後や越中への道を上杉政虎と協力して徐々に整備しているので海津城でも新鮮な海の幸を食べることができるのだ。
花見をしながら各々はそれぞれの思いを抱えていた。このような楽しい時がいつまでも続いて欲しいと。
そして勝頼にどこまでもついていこうと!
平和と綺麗な景色に美味い料理に美味い酒、一度これを味わってしまった者はもう以前のような生活には戻れないだろう。
そしてそれを守る為に命を賭けて戦うだろう。
そして戦さの足音が迫って来るのであった…
今川義元が遂に動き出します。