諏訪大社
高島城を武田信繁が統治しているのはこの物語のオリジナルです。諏訪大社は日本最古の寺社の一つで神は蛇や龍の姿で現れるといいます。
海津城での宴が終わった後、勝頼は城の守りに明智光秀を残して山県昌景と赤備え100騎、馬場信春、上泉信綱、小姓の源五郎、千代丸、それに葵と網丸を連れて諏訪を統治している叔父である武田信繁の元に向かっていた。
後方より荷駄で信繁への土産と動物の骨や木で出来たあるものを運んでいた。
勝頼が諏訪に来た理由は諏訪大社へのお参りと高遠にある建福寺に眠る母諏訪御料人の墓参りである。
史実では弘治元年に亡くなっている諏訪御料人だが、勝頼が段蔵と甲賀衆に命じ薬草や栄養のある食べ物など常に送り続けていたわった為この世界では去年の11月まで生きる事が出来たがそれでも短命である。元々身体が弱かったのが出産をした為に寿命を縮めてしまったのかもしれない。
諏訪の高島城では武田信繁が城門で出迎えてくれた。
「よく参った勝頼殿!ささっ、早く城に入るが良い!」
勝頼は土産の清酒と富山で取れた海の幸の干物やスルメ、そして塩を信繁に見せると信繁は破顔した。山奥のこの地において海産物や塩はこれ以上にない土産であった。
「気を遣わせて悪いな、勝頼殿」
「水臭いことを言わないでください叔父上」
「さあ今宵は飲み明かそうぞ!」
勝頼はこの叔父が大好きだったが昌景や信春もまた同じであった。
宴の余興に上泉信綱が剣舞を披露すると歓声が上がったが、一番の盛り上がりは勝頼が振り下ろした正宗を素手で受け止める真剣白刃取りである。やはりこの男は化け物だ!
葵の手裏剣とクナイを的に当てる技にも場は盛り上がった。普段はのほほんとしているが風魔の名は伊達じゃないようだ。
次の朝早く勝頼達は信繁と共に諏訪湖を訪れた。御神渡りを見る為である。
「いつ見ても見事なものだ。そして神々しい。」
初めて御神渡りを見たものはその美しさに見入ってしまうのであった。
勝頼は持ってきたある物のうちの一つをとりだした。下駄の下に動物の骨や木を加工したものを取り付けた現在でいうスケート靴である。
勝頼が滑ってみると周りの者達から喝采の声が上がった。皆の分も持ってきたので配って滑るように促すが昌景や信春は見事にすっ転んでいる。ワッハッハと笑っていた信繁もひっくり返った。葵はかろうじて立てているが内股のくの字になってプルプルと産まれたての子鹿になっている。
「はっはっは!勝頼様、これは中々面白いものですなあ」
なんだと!上泉信綱は最初からスイスイ滑りながらターンを決めている…勝頼より上手い!?
「化け物め…」
一刻もすると皆滑れるようになったのだが勝頼に信繁が言う。
「これは冬の間の伝令などに使えるかも知れんな。すまぬがいくつか分けてもらえんか?」
「はい!勿論です、叔父上」
勝頼は快諾した。スケートの実用方法を考えるとは流石叔父上だと思った。
勝頼は持ってきたもう一つのものを取り出した。鍛冶屋に作らせたドリルと釣り針である。そうもう一つの目的はワカサギ釣りである。大量のワカサギを釣り上げ高島城に戻ると勝頼は持ってきた椿油を使い衣をつけてワカサギの天ぷらを振る舞った。そのあまりの美味さにあっという間にワカサギは無くなってしまった。葵はまたワカサギをとってくるからもっと食わしてくれとねだってくる。
勝頼はわかったわかったと了承するのであった。自分の作った料理を美味い美味いと食べてくれるのが勝頼は何より好きだったからだ。
それから勝頼達は諏訪大社にお参りをして銅銭1000貫を寄進した。
勝頼達が立ち去ろうとした際に勝頼の目の前が暗くなった。そして目の前には巨大な白い大蛇がこっちをみている。
刀を抜こうとするが腰にあるはずの刀がない。すると大蛇は脳裏に話しかけてきた。
「諏訪の血を引く子よ。其方に加護を授けます。それを持って行きなさい。きっと其方を守ってくれるでしょう」
次の瞬間、勝頼の目の前が明るくなった。
「夢か?幻か?」
しかし夢ではなかったようだ。勝頼の手には黒地に金で文字が書かれた南無諏訪大明神の旗が握られていた。
「あの大蛇は神の使いであったか」
勝頼は昌景に命じその旗を天に掲げたのであった。南無諏訪大明神!
そして高遠城を訪れた後墓参りを済ませ勝頼達は帰路につくのであった。
勝頼達が墓に訪れた際に墓には既に誰か訪れたようで立派な花が備えられていた。
「まさか父上がな…」
武田信玄は諏訪御料人を心から愛していました。諏訪御料人が亡くなった際には涙したと言われています。経緯はともあれそこには愛があったのだと思います。勝頼は現在基本は毘の旗で大一大万大吉の旗と南無諏訪大明神の旗を掲げることとなります。武田菱は使用していません。