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大崎玄蕃と名を変え生き延びた武田勝頼の末裔の咆哮  作者: 吉良山猫
第2章海津城編
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それぞれの思惑

勝頼は今はまだ知らないが日本史に名を残す英雄達が海津城で集まっていたのです。

海津城での宴も3日目を迎えておりこの日が最後の日とあって極上の料理は勿論だが、勝頼はとっておきのデザートを用意していた。令和の時代ならいつでも食べられるような品だがこの戦国の世ではこの品を大量に用意するには冬にしかできない。そう勝頼が用意したのはアイスクリームである!牛の乳より作ったアイスクリームに蜂蜜を贅沢にかけたもので金箔が振りかけてあるものを銀で作った見事な装飾をされた皿に盛り付けて出す!皆から感嘆の声と同時に深い溜め息が漏れる。それ程に美しい品だった。


勝頼は「皆様方!目で楽しむのはそれくらいにして早く召し上がって下さい。溶けてしまいます。」


その声に一同は添えつけられた銀のスプーンでアイスクリームをすくって口へとそれを運ぶ。


うーん!と悶えるような声を景虎と葵はあげ表情をトロンとさせ腰砕けになっている。小太郎をはじめとする相模の者達は目を見開き固まっている。昌景達勝頼配下の武将達も感動してその味の余韻に浸っている。たった一口でだ!景虎が連れてきた公家はこれを彼の方にもいつか…と一人ごとを呟きながら震えている。謎の剣術家もこの世にこれ程までに甘露で美味な物が存在するとはと涙が目をつたっていた。いつの世でも最高の器で食べる甘いものに勝るものはないのであった。


勝頼は「皆様方に気に入って頂けたようで何よりです。失礼で無ければ皆様方そちらの純銀の皿と匙を土産にお持ち帰り下さい。」


すると歓喜の声が上がり一同は、銀の皿とスプーンを布で包み込んで持ち帰るのであった。


そして話が盛り上がっている中1人の武士が口を開く。「勝頼殿にお聞きしたいことがある。某相模の北条の遠き縁者のものであるが失礼を承知でお聞きしたい!」


風魔小太郎についてきたあのがたいの良い男であった。


昌景が無礼な!と口を挟むが勝頼は「良い!昌景、今宵は無礼講だ!」とその男に話すように促す。


「かたじけない。それでは2点ばかりお聞きしたい。勝頼殿は小田原城を見たことがあると小太郎殿より聞いたのだがこの海津城と比べてどっちが優れていると思われるか?」


「何を申すか!?」昌景が怒鳴るが勝頼は「昌景、よい」といなすとこう答えた。


「小田原城は私から見て今の段階では日の本の中でも1、2を競うであろう大規模で難攻不落の名城、この海津城では相手になりますまい」


なっ…一同がざわつく。


「ほうこの立派な天守閣を持つ海津城より小田原城の方が上だと申されるか。ならば今ひとつお聞きしたい。勝頼殿は北条氏康と言う男をどう見られる?」


勝頼は他の事は関係なくあくまで自分の思う感想だと前置きをした上で話し出した。


「北条氏康殿の事を成り上がりだとか侵略者などと言う者達がいるようだが私はそれは違うと思う。今は戦国の世であるから強くないと民は守れない。一族家族を何よりも大切にし、民に善政をしき戦さ上手でもある為、名君だと私は思う。」


その答えに北条の遠き縁者を名乗る男は驚いたようだが「お答えいただきありがとうございます」と頭を下げるがその口元はニヤリと上がっていた。武田勝頼、噂以上の人物だ!物事を冷静に判断してそれを話すことができる。ましてやこれだけ立派な城を築きながら自分の方が下だと並みの者には皆の前では言えまい!わざわざここまで来た甲斐があったというものだ。気に入った!


それでは私も、と今度は景虎が連れて来た公家が勝頼に質問する。「勝頼殿は帝と朝廷をどう思っておられるのだ?」


「帝はこの国の中心であり朝廷はそれを補佐する存在です。それを支えこの国を統治して、平和で民が笑って暮らせる世の中を作るのが我ら武家の役目だと思っております」


「ほう、其方は帝がこの国の頂点で、その下で国を統治して平和な世の中にしたいというのだな?」


「しかし朝廷内における公家の者達は魑魅魍魎の集まりのようなものとも言われるが其方はそれをどう思う?」


「確かにそれはあるでしょう。しかし現関白の近衛前久様は聡明なお方でそれを正せる力のある方だと伺っております。そのようなお方が上に立っている限り変われると思います。」


「ホッホッホッ、成る程。近衛前久殿のことを随分買っておられるようだ。しかも都から離れた信濃の国におりながら博識であられる。御見逸れいたした。」


この武田勝頼という小童、景虎殿が言うほどのものではないと思っていたがそれ以上であったか…


謎の剣術家も何か言おうとしたが口をつぐんだ…勝頼より質問したことに対する正論を叩きつけられるのが予測できたからだ…


その後和やかな雰囲気のなか宴は終わり風魔小太郎達は相模に、長尾景虎達は越後に翌日帰ることになり勝頼は見送ったのだが…その際景虎と北条の遠き縁者を名乗る男が勝頼の知らぬ処で言葉を交わしていたのを勝頼は知らなかった。


「なぜ貴様がここにいる、相模の獅子よ!?」


「それはお互い様だ越後の龍よ!お互い深い詮索はなしだ!」


そんなやりとりがあったのを知らない勝頼は双方を見送るのだが、最後に北条の遠き縁者を名乗る男が勝頼に話しかけてきた。「勝頼殿、此度は大変有意義な時間を過ごさせて頂いた。感謝致す。その礼と言ってはなんだがこれを受け取って欲しい!」


勝頼に一振りの見事な太刀を手渡す!「銘は相州五郎入道正宗!貴殿なら使いこなせよう」


勝頼は受け取りその刀身を抜くと見事な波紋が浮かび上がっている。勝頼は知っていたその刀の価値を!令和の時代でも知らぬ者はいないといって良いほどの太刀!そう名刀正宗だ!


「このような素晴らしい物を…かたじけない。ありがたく使わせていただきます。」


こうして勝頼の愛刀は正宗となったのであった。この刀が勝頼とともに時代を切り裂いていくのである。


勝頼は双方に酒など多量の土産を持たせたのだが、正宗の礼に後日相模にサツマイモを贈った。これで飢饉でも北条は飢えることはないだろう。

日本の誇る名刀正宗ですが今でも子孫は神奈川県で正宗の名と技術を受け継いでおり、筆者も正宗の包丁を愛用しております。

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