歌舞伎者
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佐竹義重と真壁氏幹が鍋をつつきながら今後の事を考え思案していた際、店内から豪快な声が響いてきた。
「ワッハッハ!お主ら見慣れん顔だなあ。小田原の者じゃなかろう。どこから来たのだ?」
整った顔立ちだが歌舞伎者の様な服装をした男が義重達に近付いてくる。
義重達は無視を決め込むが、その大男は勝手に隣に座り込んできて義重の肩を組む。
それでも無視をしていると、その大男は勝手に鍋をつまみ出し、酒を注文してガブガブとあおりだす。
流石に義重達は顔をしかめ無視をすることができなくなっていた。
「無礼であろう」
「無礼?お主ら侍か?若いのに沈んだ顔をしていたので気付かなかったわ」
確かに、義重達は刀こそ一振り持っているが、服は質素であった。
江戸時代と異なり、この時代は民、百姓でも刀を持っており旅人ならば身を守る為に刀を持ち歩くのは当然なのだ。
「それでお主ら何処から来たのだ?」
「ここより、北の方から」
「そうか、そうか、でこの小田原城下はどうだ?」
「今まで訪れた何処の城下よりも栄え、人が多く城も難攻不落に思います」
義重は笑顔でぐいぐいとくる大男のペースについつい乗せられて喋ってしまった。
「儂は前田慶次郎だ。お主らは?」
急に名を訊ねれられて義重と氏幹はなんと答えてよいか困ってしまった。
「某は次郎」
「同じく拙者は五郎で御座る」
「ふむ、次郎と五郎か、してこの小田原には何しに参ったのだ」
「そ…それは我等は浪人なので仕官先を探して旅をしているのです」
義重は咄嗟に嘘をついてしまったのだが、相手が悪かった…
慶次郎は満面の笑みでそうか、そうかと頷いている。
面倒なことになりそうだと顔をしかめるも、もはや後の祭りである。
そんな中、隣で鍋をじっと睨みつける美少女が隣にいるのに気がついた。
義重と氏幹は、その美少女に(ボー)っと見惚れてしまっているが、慶次郎だけは(ゲッ)と言う顔をしている。
勿論、美少女の正体は風魔葵である。
慶次郎は、葵屋に酒代のツケがたまっている為、店主である葵に見つかると不味いのである。
何故、葵が鍋と睨めっこをしているのかと言えば、葵は大の鍋好きでお腹が減った際におやつにこっそり食べにくるのである。
食いしん坊の葵は、鍋が早く食べたくて早く煮えるように火力を上げ過ぎて土鍋を壊す程である。
だからこそ、鍋に集中している今こそが最大の好機なのだ。
逃げる?いやそれは違う、後ろに向かって前進…そう戦略的撤退と言うやつだ。
慶次郎は今日の飲み代を義重達に払わせると二人を抱えて自らの屋敷に松風に乗って走り去ったのであった。
義重達は、屋敷に到着後、勿論慶次郎に抗議するが、仕官の当てや泊まる場所もどうせ無いのだろうと強引に屋敷で面倒を見ることにしたのであった。
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