迫る闇
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武田勝頼は、小田原城の天守閣の最上階で三好長慶と松永久秀と密談をしていた。
難しい顔をしながら三好長慶が「勝頼殿に話して起きたい話がある…あまり良くない話だが…」と切り出した。
三好長慶の表情に、勝頼も相当良くない話だと理解して眉を顰める。
「悪い話は二つあるんだ…まずは一つを久秀、説明してやってもらえぬか?」
「はっ、長慶様、では某の方から一つ目を説明させて頂きます」
「興福寺の一乗院跡に預けられていた、将軍足利義輝公の実弟である覚慶殿が行方不明になりもうした」
「何、それは誠か!?」
松永久秀の三好長慶の前での丁寧で、相手をたてる姿勢にも驚かされたが…史実を知る勝頼は何とも嫌な気分になった。
将軍足利義輝の実弟である覚慶…史実で言う足利義昭…何とも面倒であり嫌な男だったからである。
出来ることなら関わりたくない武将十選に入るくらいの面倒臭さだ。
勝頼は露骨に嫌な顔をしながら訊ねる。
「して犯人や詳細は?」
「申し訳ありませぬ…それが全くの謎であり見当もつきませぬ」
「ただ、気になる情報がありましてな、織田の家臣である木下藤吉郎と言う者が名を変え羽柴秀吉と名乗っているのですが、その者がどんな手を使ったか分かりませぬが、伊賀里と甲賀の里を味方につけた為、六角家は窮地に立たされている様でございまする」
「羽柴秀吉はその功績により、長浜に領地を貰い城を建てたとか」
「当初、羽柴秀吉はその功により織田信長の妹であるお市の方を求めたと聞いていますが、羽柴秀吉を毛嫌いするお市の方は出奔し行方不明になられたとのことで長浜の領地に落ち着いたようでござる」
羽柴秀吉か…またまた面倒な奴が台頭してきたものだと勝頼は思う…何故ならこいつも関わり合いになりたくない十選の一人だからだ。
勝頼は話を聞いている度に胃が痛くなり、目眩を感じる程であった。
「してもう一つの悪い知らせは?」
「それについては儂から話そう」三好長慶が話し始める。
「儂の嫡男である義興に毒をもっていた一味の一人の名前が分かった。れっきとした証拠はないが間違いはない」
「それはまた…賊の名は?」
「面倒なことに各地の有力大名や、公家衆、寺社や大商人に繋がりがあり、この儂と言えど迂闊に手出しは出来ん相手じゃ…」
三好長慶は悔しそうに歯軋りをしながら答える。
畿内の天下人と言われる三好長慶が手を出せない相手…これは只者ではない…東北平定を急がねばならぬかも知れねと勝頼は思う。
「してその者の名は?」
「その者の名は千宗易…堺の大商人にして、日本一の茶道家じゃ」
勝頼は絶句した…千宗易…令和の世で知られる彼の名は千利休…日ノ本一の茶道家として知られ、千家としてその茶道は令和の世まで続き、織田信長、豊臣秀吉の知恵袋として政治にも干渉してきた化け物である。
「千宗易ですか…またえらい大物の名が出てきましたね…」
「うむ、そうなのだ、近衛以外の五摂家を初め、公家衆や大名、寺社、大商人に強い結びつきがあり迂闊に手出しができん」
「でしょうね…」青ざめた顔で勝頼はため息を吐き苦笑いをする。
「そして千宗易の暗躍で、毛利家、大友家、一条家が手を結んだのだ…九州地方、中国地方、四国地方においてこのままでは制圧されるのは時間の問題だと思う」
「長慶殿のお味方は?」
「敵の敵とは良く言ったもので、将軍足利義輝公と関白近衛前久様…そして其方達だけだ」
もう逃げ出したい…九州、中国、四国が組んで、今川、織田連合も勢力を広げている…早く東北を落とさねば自分達が危ない…勝頼は天国から地獄に叩き落とされた気分であった…
しかし、勝頼も武田家の当主である…胸に不安を抱えながらこう言い切った。
「帝と義父上である将軍を守るのは我等の務め、協力して立ち向かいましょう」と
こうして三好家と武田家は正式に同盟を結び全国に宣言するのであった。
次回は葵回です。