馬揃え
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翌日、武田勝頼はある重要な催しを行う為、三好長慶を始めとする有力大名や招かれた公家、足利家の名前を使い声を掛けたまだ地方の敵対していない大名や、東北地方の大名達の名代達を、城下に陣を張り少し高めの位置に用意した閲覧席に招いていた。
閲覧席には、将軍足利義輝の名代を初め近衛前久の名代や、武田信玄や北条氏康などの親族衆、上杉輝虎の名代、最近降った諸大名や有力商人なども控えていた。
しかし、彼らが不思議に思ったのは、見知らぬ金属の楽器の様な物を抱えた一部隊が彼らの逆側の道に配置されていることである。
その中心で指揮棒を、握るのは赤字に袖口が白の炎の隊の羽織を羽織った石川数正であった。
そう、彼らは勝頼が助五郎に南蛮から取り寄せた楽器や勝頼が製作させた楽器を演奏する楽器部隊なのである。
勝頼は、石川数正に命じて男女問わず才能がある若い者達を集めさせこの日に披露させる為、鍛えさせていたのである。
儀礼や出陣、凱旋の際に音楽の力を使い武田軍の力を高める為に…そして彼らが覚えた楽曲は二曲、陸軍分裂行進曲と軍艦マーチであった。
勝頼が皆の前で披露するのは、[馬揃え]そう、内外に武田軍の力と財力を見せつけるのが狙いである。
主な将達を十四の部隊に分けて隊長には先程の羽織を羽織らせ十四番隊である楽器部隊以外は、各隊三百名で組織して[馬揃え]を行うのだ。
各隊の隊長達の背中にはその部隊の数字が背中に大きく刻まれていた。
武田勝頼は、閲覧席よりやや前にある舞台の上に鎧を着て、葵と牙とくう、そして網丸と共に立っている。
葵の格好は美しい着物を着ているが、上下の袖や裾が、何故か短く動きやすい格好で、令和の世で言うバトンを右手に持ち、首から銀の笛を掛けている。
ズンダカダンダン、ズンダカダンダン、ズンダカダン…太鼓の音が鳴り始めると葵は足踏みを始め、バトンを右手で上下させながら、ピー、ピー、ピッピッピと笛を吹き始める。
すると一斉に十四番隊が演奏を始める…タンタタターンチャララッチャラッチャララン、タンタータンチャララッチャラッチャラ、タンタータンチャララッチャラッチャラ、タンタータンチャララッチャラッチャラ…そう陸軍分裂行進曲である。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」」」
初めて聞く腹まで響く…いや魂までに響く様な演奏に皆がそれにのまれる。
そして、風林火山、毘沙門天、武田菱、足利将軍家の旗を閃かせて軍勢が、行進してくる。
そう、見ている閲覧席の者達や、城下の見物客、他国の間者などもが驚きの声を上げるような、手、足共に一糸乱れずの動きは見事としか言いようがない…今までの歴史の中でここまで訓練された軍勢は見たことがないからだ。
先頭は山県昌景を中心とした赤備えだ。
「一番隊!礼イィィィィィィィィィィ!」
山県昌景が勝頼の前で刀を抜刀し、自身の顔の前に構えた後に、切っ先を主君に向ける、そして隊員達は勝頼に向かって一斉に敬礼をする。
勝頼はそれに敬礼で返すが、隣で何故か葵と網丸も目をキラキラ輝かせて並んで敬礼している。
そして山県昌景は、勝頼の前を通り過ぎると刀を右に払う仕草で固定する。
続いて二番隊は馬場信春だ。
「二番隊!礼イィィィィィィ!」
「三番隊!礼イィィィィィィ!」
三番隊の隊長は高坂弾正である。
「四番隊!礼イィィィィィィ!」
四番隊隊長は内藤修理之介…彼の隊は荷駄隊である。
「五番隊!礼イィィィィィィ!」
五番隊隊長は上泉信綱が務め…五番隊は主に勝頼の親衛隊である。
「六番隊!礼イィィィィィィ!」
六番隊隊長は雑賀孫市である…彼の隊は異形で、ヘルメットをかぶり、胸当て、ライフリングの改良火縄銃に銃剣が装備されている。
「七番隊!礼イィィィィィィ」
七番隊の隊長は北条氏邦であり、元北条家臣団を率いている。
「八番隊!礼イィィィィィィ!」
八番隊隊長は、本多忠勝であり、元三河衆を率いてる。
「九番隊!礼イィィィィィィ!」
九番隊の隊長は島津家久であり、装備は六番隊と同様の鉄砲部隊である。
「十番隊!礼イィィィィィィ」
十番隊の隊長は黄色八幡である…こちらは北条軍の最精鋭部隊である。
「十一番隊!礼イィィィィィィ」
十一番隊の隊長は服部半蔵…普通忍びは表には出ないが、服部半蔵と伊賀衆は武将としても働き部隊を率いるが、やはり得意技は暗殺や調略、工作などである。
「十二番隊!礼イィィィィィィ!」
十二番隊の隊長は前田慶次郎である…彼らは遊軍として戦の際の自由行動が認められている。
「十三番隊!礼イィィィィィィ!」
そして謎なのがこの十三番隊だ…隊長はいつも顔に頭巾をしており、馬揃えの今は頬当てで顔が隠されており、その正体は勝頼しか知らない。
昨年くらいから武田勝頼に仕えているようだがその正体は明かされていない…しかしその身体が発する気から只者でない事は間違いないのだが…
何故正体が明かされていないのか…謎であるが、勝頼に考えがあると思い、誰もそれを問いただす者はいなかった。
彼の正体が明らかになるのはまだ暫く先のことになる…
こうして武田勝頼は[馬揃え]に音楽を取り入れ、一糸乱れぬ行進で行う事により、その力を内外に示したのであった。
顔を明かせない理由が十三番隊の隊長にはある様です。