最高のもてなし
いつも誤字脱字ありがとうございます。
その夜に宴が開かれ、正月の料理の他に砂糖と醤油をふんだんに使い、改良を加えて旨味を増した今用意できる最高級の和牛と椎茸や豆腐、白滝などこの時代では最高級の材料を惜しみなく使ったすき焼きをメイン料理として本丸御殿に登城できる者達全員に振る舞った。
少し嫌味かもしれないが、その上には金箔を塗してある。
以前似たような料理を数名に振る舞ったことがあるが、あくまでもそれは擬きであり良質な和牛と琉球王国からの高品質の砂糖や上質な醤油を使っている為、これは正に別物…そう、これこそがすき焼きと言うにふさわしい物なのだ。
勝頼の趣味で、自ら醤油の製造に携わり、令和の時代の舌の記憶を頼りに一番美味い醤油と信じてやまない亀甲男の醤油の味を再現している。
勝頼は醤油にはうるさいのだ。火下駄や醤田や和田摘など様々な美味い醤油が令和の時代にはあったが、その中で唯一無二の存在が亀甲男なのである。
あえて言おう…亀甲男の醤油は世界一いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
醤油とは家庭の味、そう、お袋の味に繋がる大切な物…勝頼にとってはそれが亀甲男の醤油であった。
そして、この時代には貴重な生卵を女中達が来賓者に一人一人につき卵を割り掻き混ぜる。
そして、事前に勝頼から指導された通りにすき焼きを調理していくのだ。
他の肉では追従を許さない世界一の肉…それは間違いなく和牛。
そして、目の前にあるのはこの時代で最上級の和牛だ。
見た目の豪華さや美しさだけでも、皆食べるのが勿体ないと思うほどの物だが…肉を焼く音と立ち込める美味そうなその香りに皆がまるでジャブを打ち込まれたボクサーのようにくらくらきている。
葵に関しては言わずもがなだが、身分の高い者や老若男女関係なく皆がよだれを垂らしている…もう我慢できないとばかりに。
牙とくうも勝頼と葵の横でよだれを垂らしており、その絵柄が怖いので、先にたらいいっぱいに盛られた和牛の内臓を用意させる。
すると貪るように血で口を真っ赤にしながらがつがつ食らいついている。
葵は微笑ましげに微笑み「まったく牙とくうは食べる仕草も可愛いですね、勝頼様」と呟くと…勝頼も「まったくだな。新鮮な和牛の臓物を用意した甲斐があったと言うものよ」とにこにこと微笑みを浮かべる。
これが普通の猫に餌を与える夫婦の会話なら微笑ましく和むのだが…牙とくうは白虎と虎である。
その様子を見た一同はぞぞーっと背中に冷たいものを感じ震え上がった。
怖い…怖すぎる…この夫婦を敵に回したら命がいくつあっても足りないと…
そんなことを知ってか、知らずか、勝頼は「さあさあそろそろすき焼きが食べ頃だ。卵に絡めて食べてくれ」と微笑む。
公式な場ではいつも、『私』や『してくださいね』など丁寧語なのだが今日は無礼講の為、普段の言葉で喋っている。
一同は思い出したように、ハッと我に返り目の前の御馳走に目を向けて言われたようにそれを口に頬張る。
しかし…誰もが口にした瞬間固まってしまって微動だにしない。
三好長慶が…「勝頼殿…これは妖の仕業か?」
三好長慶が勝頼に訊ねる…
「いかがされました長慶殿?まさか皆様のお口に合いませんでしたかな?」
相手が同じ上座に座る畿内の天下人なので丁寧語で訊ねる。
しかし、三好長慶を初め全ての者が首を左右に振る…声も出ない程美味すぎるのだ。
世界の王族でもこれ程美味い物は食べたことがないだろう。
「いや、違うのだ…口に入れた瞬間噛む前に溶けて無くなってしまったのだ!?」
そう…そして口の中にはこの世の食べ物と思えない程の旨味とその余韻が残るのだ…
「「「「「美味い!美味すぎる!」」」」」
ここにいる全員の者が勝頼に胃袋を制圧された瞬間なのであった…
本当に美味いすき焼きの恐ろしさはクロスカウンター以上の威力を発揮します。だって仕方ないじゃないか…美味すぎるのだから…