牙とくうの正体
いつも誤字脱字ありがとうございます。
武田勝頼達は三好長慶と松永久秀の突然の訪問に唖然としていたが、その中で、風魔葵、前田慶次郎、最上義光だけは畿内の天下人主従ではなく安宅船に牽引された鯨に目が釘付けであったという。
鯨もこの時代でも捨てる場所がない食材であり、肉、皮や油、脂、髭、筋、骨、肥料など全身が宝なのである。
新鮮なものは刺身にしても美味い。
そういえば、史実で八代将軍徳川吉宗の時代の頃から田んぼで鯨油が農薬代わりに使われていた事を思い出し、相模や武蔵でも取り入れていくかと勝頼は思った。
しかし、確かに嫡男や弟がいるとは言え三好政権の主とその腹心がただそれだけでわざわざ小田原まで来るだろうか?
答えは否だ…勝頼の直感がそう告げていた。
これは正月より面倒事になるかも知れぬな、と気を引き締めると共にため息を吐く勝頼なのであった。
そんな勝頼の心を知ってか知らぬか、松永久秀が勝頼に挨拶を交わしながら葵に声をかける。
「これはこれは奥方様、お久しゅうございまする。相変わらず雪のように美しい」
松永久秀はにこにこと好好爺のような物腰と物言いで葵を持ち上げる。
葵はポッと頬を赤らめながら満更でもない感じで照れている。
「松永様、ありがとうございます…そんな…美しいなんて…」
葵は完全に舞い上がっている…そうだ令和の時代で言うとジローラモのようなちょい悪親父だな全くと勝頼はじと目でその様子を眺めている。
「京の都で美しい反物を手に入れましてな、奥方様に似合うと思いつい買ってしまった為、失礼かと思いましたが某と勝頼様の仲もある為、土産に買って参りました」
松永久秀の勝頼への言葉遣いは、勝頼が官位や家柄だけでなく領土を着実に広げていることもあり以前より丁寧になっている。
松永久秀が葵の前に出したのはさくらんぼ色の生地に見事な蝶の金の刺繍が入った見事な物である。
葵は照れてれしながらも、かなりそれが気に入ったらしく貰っても良いかと勝頼の方を目をキラキラさせて訴えるように見つめている。
勝頼は心の中でため息を吐きながらも、確かに葵に似合っているなと感心しながら貰っておけと言う意味で頷く。
葵は顔をパァァァっと輝かせ目をキラキラ輝かせこくこくと頷く。
「松永様、このような素晴らしい品ありがとうございます。あまりの素晴らしさに見入ってしまいました」
「ホッホッホッホッ。喜んで頂いたようでなにより。この久秀、ここまで持ってきた甲斐があったと言うもの」
勝頼は側近に命じて直ぐにある物を持ってこさせる。
「松永殿、我が妻に素晴らしい物を頂いた御礼と言っては何ですが珍しい物を手に入れたので受け取っていただきたい」
「ほう、勝頼様が珍しいと言うからにはかなりの珍品なのでしょうな」
松永久秀は目を細めて呟く。
「これを受け取っていただきたい」
「!?こ…これは!?」
「琉球王国の焼き物ですよ。松永殿は焼き物に目がないと聞いております故」
「これはこれは恐縮でございますな…しかしまたこれは今まで見たことがないが素晴らしい…確かに珍品でありますな…ありがたく致しまする」
そんな中で葵が、「あの安宅船で引いてきた大きな魚はうちの猫が喜びそうです」と呟く。
三好長慶がその言葉に反応して、「ほう、勝頼殿の奥方は猫を飼っておるのかな?」
「はい、勝頼様と私で1匹ずつ猫を飼っているのです」
「ほう、それは是非とも見てみたい物ですな」
「分かりました、今からくうとキバを連れてきますね」
笑顔で一瞬の内に走り去った葵を見て勝頼は青くなる。
しまった…葵には説明する機会を逃して猫なら猫で良いかとそのままにしていたのが仇となったかと頭を抱える。
「三好様、連れてまいりました」
その瞬間、三好一行や最上一行、その他武田信玄を含めた者達、くうと牙を知らない者達は腰を抜かしたり恐怖、恐れ、怯え、混乱、絶望、気絶など大混乱、大惨事になった。
流石に名のある武将や大名達は腰を抜かしたりはしないが、あまりの衝撃に呆気に取られ放心状態になっている。
「はじめまして、くうと牙です」
「可愛いでしょう?くうが葵の猫で牙が勝頼様の猫です」
牙が勝頼に擦り寄りゴロゴロ喉を鳴らしており、葵はくうに跨がっている。
「この子達、普通の猫の何倍もご飯食べるからこんなに大きくなってしまって」
「大きなお魚を腹一杯食べられるっていったらこんなに喜んで尻尾を振ってるんです」
くうが葵の顔をペロペロ舐めており、牙が勝頼に甘えて背後からのしかかっているのだが…知らぬ者達から見たら捕食されているのと、襲われている以外の何ものにも見えない。
「くう、牙、皆さんにご挨拶して下さい」
『がおおおおおおおーん!!』
「「「「「ひぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」」」
何故か皆顔面蒼白でガタガタと震えている。
葵はキョトンとした顔で不思議がりながら「皆どうしたのですか?くうも牙も大きいけど大人しくて可愛いですよ?それに賢くて強いんですよ。鹿とか一撃で狩ります」
「凄いでしょう」えっへんとばかりに葵は胸を張るのだが…皆は心の中で突っ込みを入れる。
「「「「「そんな大きな猫はいないし、猫は鹿を一撃で倒せないし、そもそもがおおおおんて鳴かねー!!!!!」」」」」と…
三好長慶が顔を痙攣らせながら葵に呟く…「本当に猫なのですかな?」
葵はにっこりと笑い「はい猫ちゃんです」と答える。
しかし、誰もくうと牙を猫だと思う者はいなかった…だって…くうはどう見ても虎であり、牙は白虎だったからである
「奥方様にはいい難いのですが…くうは虎で牙は白虎です」
松永久秀が呆れながら呟くと…
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
今度は葵がひっくり返る程驚いていたので、皆はそれに驚いた。
この後、武田勝頼の二つ名は関東の白虎になったと言う…
虎の雄は3メートル超えますからね、この物語ではまだ成長途中ですが、くうは3メートル、牙は4メートルまで最終的に成長する設定です。