永禄五年
いつも誤字脱字ありがとうございます。
永禄5年、新年になった為、小田原城には武田領内の主だった者達が集まっていた。
上杉輝虎と越後衆や、輝虎の支配地になっている大名や武将達は春日山城にて過ごしており、輝虎と虎千代に挨拶を行なっている。
勝頼も早く輝虎や竹千代に逢いに行きたいのだが、立場がある以上私情を挟む訳にはいかない。
年越し前についておいた餅もあるが、新鮮な柔らかい餅を元旦に皆に振る舞いたかった為、力自慢の家臣達に頑張ってもらっている。
前田慶次郎や本多忠勝、馬場信春、島津家久、雑賀孫市、北条氏邦などが我が一番だとばかりに張り切って餅をついている。
別の場所で勝頼も餅をつき始めたが、ならばと葵が餅を返してくれる。
正に夫婦の阿吽の呼吸というやつだ…それを早川殿達が辛み餅やあんころ餅やきな粉餅などにしてくれている。
そこに武田信玄が、「どれ勝頼、儂も餅をつくぞ」と杵を持つ。
「父上、張り切りすぎると腰にきますぞ」
「たわけが。人を年寄り扱いするでない」
そう信玄が声を荒げると周囲から一斉に笑いが湧き上がった。
「大御館様、僭越ながら某が」と山県昌景が餅を返す。
「儂も信玄坊主には負けておれんわ」と今度は北条氏康が杵を持つ。
「義父上、古傷に触りますぞ」
「なんの、まだまだ若いもんには負けんわい。鍛え方が違うのじゃ」
「大殿、されば某が」と北条綱成が餅を返す。
「お父様、明日起き上がれなくなっても早は知りませんよ」
早川殿がじと目で言うとまた笑いが湧き上がる。
そして出来上がった餅を皆で食べるのだが、美味い、美味すぎる。
葵がパクパク食べながら餅を喉に詰まらせて苦しんでいるので勝頼が背中を叩き瓢箪の水を差し出す。
「んぐぐぐ…勝頼様、ありがとうございます」
餅は魔性の食べ物でついつい食いすぎてしまうので、食べすぎると太るぞと勝頼は心の中で思うのだが、葵だったらたとえ太ってしまっても愛している自信がある。
ドSの勝頼は葵が好きな食べ物を食べるのを我慢して悶えている姿も好きなのだが、何より食べ物を美味そうに食べる顔が一番大好きなのである。
だからいつでも葵の為に美味い物を腹一杯食べさせてやりたいと思っている。
いつか日の本を統一したら葵と日本中の美味い物を食べ歩きたいと勝頼は思っている。
その為には早く日の本を平和にしなくてはならない。
この皆の笑顔を守る為ならば勝頼は鬼にでも魔王にでもなってやると決意を新たにするのであった。
朝は新年の挨拶とおせち料理、昼は餅だったが、夜は勝頼が差配した珍しい料理を用意してある。
勝頼は漁業改革の一環として漁法や網の改良なども行っているが、釣竿や釣り糸、釣り針も今の時代で手に入る物を使いなるべく改良してある。
釣りにおいては竿が伸びる技術、重りや浮き、餌、そして一番は様々なサイズの返しがついた釣り針である。
「皆の衆。この後私の戯れに付き合ってもらえる者はついてきて欲しい」
皆は何をやるのかと興味深そうに勝頼の方を見ている。
「今から釣り勝負を行い一番の大物を釣った者に褒美を取らせる」
「釣り勝負の基準は大きさと重さとその魚の価値により決めるものとする。一番の者には清酒一樽、芋焼酎一樽、そして新たに開発した大型の新兵器のボーガンをとらせる」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
皆が歓喜に湧き上がる…ほぼ全員が参加すると言ったので、賞品を増やすことにする。
「二番には醤油一升、三番には私が趣味で彫った毘沙門像を授ける」
これには皆が歓喜したが、反応は三者三様であった。
前田慶次郎達の様な無類の酒好きで戦狂いは一等の賞品がどうしても欲しい。逆に、葵の様な食べるのが好きな者は、この時代では塩や味噌より高価な醤油を気兼ねなく使えるよう絶対に欲しい。北条氏邦のように武田勝頼を信奉してる者達にとっては主君が彫った毘沙門像は何よりも欲しい物であった。
皆がそれぞれの思惑を抱える中で釣り勝負が始まろうとしていたが、武田信玄と北条氏康も張り切っていた。
父上達…お前らもかいと心の中で勝頼が突っ込んだのは秘密である。
葵に関しては好きすぎるので、ここまで心を奪われると全身火傷してケロイドになろうと勝頼は愛しつづけます。