香蘭
いつも誤字脱字ありがとうございます。
小田原城に戻った武田勝頼に客人が訪れていた。琉球王国経由でジャンク船にてやってきた明国の商人香蘭と言う女商人だった。
それが勝頼に目通りを願っていたのである。名目としては献上品と共に挨拶がしたいとのことである。
勝頼は考えた…この時代に正規に明国との取引はあったのか?もし無いとするならば倭寇か?
しかし、もし倭寇だとしても武田家の利益になるようなら会わずにはいられまい。武田勝頼は、山県昌景に命じて、石鹸、養殖真珠、上級塩、干し鮑、スルメ、フカヒレ、等級の低い刀など此方が損する事なく取引の材料になりそうな物を何点か用意させた。
歴史を知る勝頼は知っている。戦国時代から幕末にかけて日の本の宝である金銀が、騙されるような形で海外に大量に流出して失われたのを…特に金だけは後の世も考えて海外に出す気は無かった。
武田勝頼に面会を申し入れて了承され上陸した香蘭達は驚愕した…博多や堺、京の都を訪れたことのある彼女らは小田原城下に驚きを隠せなかった。
武田勝頼は今優先的に小田原城と江戸城の改修と街づくりに力を注いでいる。規模が大きく金が集まる場所には人が集まるのだ。
まるで小田原城下が日の本の中心であるかのようであった。総構えへの拡張工事も進めており、天守閣も建造中だ。小田原城下にもコンクリート技術を使っているので作業も早い。
なんだここは…まるで明国の都のようでは無いか?しかもこの城は要塞化されている…日の本はここまで技術が進んでいるのか?しかも琉球王にして、この国の帝を先祖に持つ一族であると聞く…
彼等は中華思想を持つ漢民族であり、自分達の国は日の本の何倍もの規模の大国であり誇りがあったが、侮れない相手だと認識をして皆全身に汗をかいていた。
広間で勝頼と面会した際には、その覇気と威圧感の為、面を上げるように言われても中々動く事が出来なかった。その為、面をあげた後もその鋭い眼光に気圧されて、まともに顔を見る事が出来なかった。
あれが、真の王たる資質を持ちし者なのだろうと理解した。側に控える重臣達の迫力も他の大名家では見たことのないものだった。
商売相手を求めて、堺や博多の有力商人の力を借り、献上品を渡すという名目で大友家や三好家をはじめとする大大名に目通りを許された時もこの凄みはなかった。
献上品と今回持ってきた物は、生糸に絹織物や陶磁器やスパイス類、硝石などあったが…抜かったと思った…献上品が足りなかったかと思ったのだ。
「恐れながら…実はまだ運び切れていない献上品が船に積み込んでおりますので、配下の者に運ばせることをお許しください。つきましては、もし希望の物がありましたら言って頂けましたら用意出来る物でしたら用意させていただきます」
すると勝頼は「葵、何か欲しい物はあるか?綺麗な宝石等手に入るかも知れんぞ?」
葵は「でしたら勝頼様、私に可愛い猫を手に入れて下さるって約束だったではありませんか?猫が欲しいです」
「我が妻はこう言っているが、珍しい猫や山猫などはないのか?」
香蘭は渡りに船とばかりにそれに食いつく。珍しい動物は良い取り引きの材料になるので動物の売買も行っていた。確か猫類も子猫が何種類かいた筈だ。
香蘭はすぐに2匹のつがいの子猫と宝石類を持ってきた。
気を良くした勝頼は山県昌景に命じて用意しておいた品々を並べる。
「大儀だ。褒美としてとらせる」
出てきた品々の豪華さに香蘭は息を飲み込む。どれもこれも本国で高値で売れる品々で献上品以上の大金に化ける品々である。
勝頼は言った…「其方らが望むのであればこれらの品を定期的に取り引きしてやってもよい。ただそれには条件がある」
「恐れながら条件とは?此方と致しましては願ったり叶ったりでございます」
だろうな…その為に来たのであろうなと勝頼は口元をニヤリと吊り上げる。
「一つは大名家とは我等以外とは取り引きをしないこと、一つは我等の事やここで見知った事は他言無用と言うこと、そして最後に、私が欲しい物がある際には全力でそれを手に入れることだ。出来るか?」
「勿論でございます。是非、是非我等にやらせていただきたい」
「良い返事だ。では手始めに綿花の苗を多量に入手して欲しい。それと様々な種類の火打ち石だ」
こうして香蘭との取り引きが成立したのであった。
勝頼は香蘭達に城下に拠点も作ることを許し、くれぐれも本国には気をつけろと忠告をしたのであった。
子猫2匹に関しては雄を勝頼が飼うことにし、雌を葵が飼うことになった。
勝頼は雄に牙が鋭いので「牙」葵は雌に食いしん坊なので「くう」と名付けた。
しかし、少し大きい気がするが多分山猫なのだなと思う2人であった。
香蘭は猫に関し、1番立派で強そうな皇帝に献上するのと同じものを用意しろと命じています。