悪が許せない天使さんのお話
あるところに、1人の天使さんがいました。
天使さんは許せないことがあります。それは“悪”です。
“悪”が消えれば幸せなのに。“悪人”がいなければ平和なのに。
誰よりも強いその願いが届いたのか、ひょんなことから天使さんは“悪人”を殺すことができるという言い伝えの魔法の槌を手に入れました。
それを手にして、天使さんは世界を幸せにするため意気揚々と向かいました。
初めのターゲットは犯罪者のみなさんです。
殺人、強盗、強姦、詐欺。人を傷つける極悪人。生きる資格はありません。
有無を言わさず処刑しました。正義の執行に慈悲はいらないのです。
冤罪かどうかも知りません。疑わしかったら殺してから考えればよいのです。
犯罪者の人たちには他人に虐げられたから貧しかったり、不幸な経験から人を信じられない人たちもいるのですが、天使さんは考えません。“悪人”は悪だからです。
更生よりも処刑。正当性よりも被害者感情。仕方ないことなのですから。
犯罪者を皆殺しにしても、この世から悪は消え失せませんでした。
天使さんは犯罪をしない“悪人”が存在することを理解します。
最たる例はお金持ちです。政治家や資産家、投資家や大きい会社の社長。
彼らは富を独占します。富の格差は広がります。殺したほうが正義になります。
その一方で、天使さんは貧困者という悪人を見つけました。彼らの多くは犯罪者、社会の不安に繋がる存在なのです。
天使さんは頑張り屋です。数は多かったですが、頑張って両方共殺しました。
格差は勝ち組と負け組が居るから成り立つのです。全員殺せば、格差はなくなります。格差は悪なのですから、しょうがないことなのです。
こうして経済を回していたお金持ち、誰もやらないけど必要だった仕事をしていた貧困者は消えて、社会はとんでもない混乱に陥りました。
だけど、天使さんは気にすることはありません。むしろ混乱に利用して儲けた成金や職を失った貧困者のみなさんを殺すことに精を出していました。
“悪”は減りましたが、まだ世界にはたくさんの“悪”があります
世界のことが分かると、天使さんはますます“悪人”を見つけ出しました。
悪人を1人殺せば、1人分の憎しみが消えます。1人分の悪が消えます。
つまり、それだけ世界が平和になります。幸せになっていくはずなのです。
だから、殺しましょう。全部、全部、全部、殺して、殺して、殺して、殺して、全部、全部、殺して、殺して、世界が良くなるまで、全部、殺して、全部、殺して、殺して、悪は、殺して、殺して、全部、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、悪は、殺して、殺して、とりあえず、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、悪は、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、とにかく、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
こうして天使さんは世界に蔓延る“悪人”を皆殺しにしました。
もう、この世界で悪が行われることはありません。
何故なら――誰1人、この世界に人は生きていないのですから。
誰しも大なり小なり悪の心はある、そうでなくても見方によって正義と悪は簡単に入れ替わる、ということを天使さんは知りませんでした。
でも、天使さんは後悔なんてしていません。悪は、悪いことなのです。