表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が魔物を ♡死屍累々♡ にするせいで! 妹が ☆肉嫌い☆ になって困ります!!  作者: 風庭悠
第1部「地の刻印」第1章「砂の住人【サンド ドゥエラー】」
2/78

02 「セラエノ断章の読み手」

ディーンと名乗る少年が目当ての魔人の名を告げると魔獣の声が怒りに泡立つような波動を帯びた。

「お前⋯⋯、お頭に怪我をさせた⋯⋯やつ。⋯⋯許さない。親分に近づく⋯⋯許さない。」


交渉は終わり、少年は敵とみなされたのだ。もう一度、砂が噴き上がる。ただし、敵でなければただの食糧にすぎないのもこの惑星を支配する摂理だ。少年は口に入った砂を不快そうに吐き出してから言った。

「おい、髪に砂がついたじゃないか。砂漠じゃシャンプーはできないんだぞ!」

少年は水の貴重な「砂漠あるある」を口走ると、背中に背負った刀の柄に手をかけ、跳躍する。重力制御装置がついたブーツのため、常人では到底飛べない高さへと飛んだ。


刀が抜かれる。それは月明かりを浴びて妖しく光を放つ。少年は魔獣と距離を置いて着地するとそれを構えた。その刀身は僅か60cmほどの長さだ。その柄は燻した金色の皮がまかれていたが、その柄尻には大きな宝玉がはめ込まれていた。


砂柱から現れた魔獣の尾の部分が少年に襲いかかる。少年は手にした刀でそれを受ける。彼の手にはめられた重力制御グローブで多少の質量攻撃では効かないのだ。受け切った後、逆にその尾に切りつける。濃緑に濁り切った体液が飛び散り、少年の顔にも飛沫がついた。少年はそれを親指の腹で撫で取ると、信じられないことにそれを口にした。

「くそ不味いな。」

そして、ありきたりすぎる感想を述べた。


「その剣⋯⋯(おで)、知ってる。お前⋯⋯、お尋ね者。⋯⋯ディーン、嘘偽りの名前。⋯⋯お前の本当の名は⋯⋯。」

魔獣が非難する様な口調で述べる。


「ああ。俺の⋯⋯名は。」

少年が名乗る前にもう一度、今度は大きく開いた口で彼を飲み込もうと襲いかかった。少年は何とかそれを避けると援護を呼ぶ。


「ベル、砂漠の住人(サンド=ドゥウェラー)だ。ヘルプを頼む。」

いきなり、サイドカーの蓋が跳ね上がる。ゆっくりと小さな人影が立ち上がる。


幼女だ。


およそ6歳くらいの女児だ。ジェットコースターに乗れるまでは行かない身の丈。身長の割にそれほど肉付きは良くない。ほっそりとしたシルエットだ。グレーの生命維持(バイタル)スーツの上着の下に黒いティーシャツ、下はスパッツを履き、その上にレースのフリルのついた黒いスカートを巻いていた。


彼女は肩まで伸ばした銀髪。ややプラチナブロンドに近い風合いだ。眼は凍る様なアイスブルー。まるで高名な人形師によって彫り上げられたかのような整った顔立ちは、色白というよりは白皙と言えるほど白い。


彼女は無言で舞い上がり、まるで蝶のように飛び回る。銀髪が月明かりに濡れるような光を放つ。その手にある小さなグローブから光の線が溢れる。


 少年めがけて再び突撃しようとしていた魔獣ー砂漠の住人(サンド=ドゥウェラー)の動きが止まる。口を大きく開けようともがくがそれも叶わない。悔しそうな叫びが少しだけ空いた口から漏れるようにでる。


 彼女が手にしていたのは「魔糸」。それは光る金属の糸、グラヴィティ・バインダーである。それは蜘蛛の邪神アトラク=ナクアから生じる糸と同じ成分で構成されており、この物質界の常識を超えた強度をもっていた。

「卑怯⋯⋯者⋯⋯。『銀糸の織り⋯⋯手』も一緒。」

魔獣の言いがかりに少年はニヤリと笑う。

「⋯⋯かもな。」

少年の手にした刀がいきなり巨大化し、大きな鎌の形をとる。

「⋯⋯その剣⋯⋯。お…もいだした……。魔剣『ガラティーン』。」


「ベル、セラエノ断章(フラグメンツ)。」

「OK。最適化オプティマイズ」

少年は指を折って数を数える。そして、もうう一度飛翔すると上から6番目の魔獣の節に鎌をあてがう。それはまるでプディングに包丁を入れるようにスッと入っていく。

「そう、あんたの心臓はここにある。俺が遺伝子(ゲノム)を読み、、セラエノ断章(フラグメンツ)のデータに合わせた形に姿を変える魔剣、ガラティーンの使い手。⋯⋯俺の真の名は、『宝井舜介(たからいしゅんすけ)=ガウェイン』だ。」


魔獣は心臓を切り裂かれると空気を揺るがすような咆哮をあげ、地響きと砂埃とともに倒れた。魔獣からでるおびただしい体液が砂を汚していく。少年は倒れた魔獣の傷口から出た宝玉のように光る石を拾い上げるとズボンの蓋つきのポケットにそれをしまった。それは「魔結晶」と呼ばれる石で、これを摘出しないと魔獣は再び再生を果たすのだ。

「これでよし。」


魔獣を仕留めあげたことを確認すると。少年ー舜ーのもとに文字通り飛んで来る。そして、舜の腕にお姫様抱っこの形で受け止められると目を閉じた。彼女から女性の影が抜ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ