序章
★この小説は子供(実年齢13歳以下)を主人公や準主人公にした『ムーンチャイルド企画』に参加しています。
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★ケータイから読み辛いとご意見があったので、ケータイ用改行を入れてみました。
男女一組が薄暗い部屋で顔を突き合わせている。
「――どうする?」
男が思案顔のまま、目の前の女を伺うように見つめた。
「どうするって、あんた。キース以外に誰が居んのさ。ウーイやルーイは女だし、ハースはあんたの手伝い。他の男兄弟はみんな出てるじゃないか」
男は腕を組み、口をヘの字に曲げた。
「しかしなぁ……」
「あんたが手が空いてりゃ、あんたが行くのが道理だろうけど、猫の手も借りたいほど依頼が立て込んでんだよ」
「そうなんだが……」
女は煮え切らない男を見て、呆れた表情になった。
「これ以上、仕事遅らせてどうすんのさ。高が隣りの郷に届けるだけだろ? キースにだって出来そうなもんじゃないか」
男は女に苦笑いをした。
「お前よ、近所に夕飯のお裾分けに行くのと訳違うんだ。お前は心配じゃないのか? ウナルバ郷に行くには、森と川を越えて行くんだぞ」
女は肩を竦ませた。
「だから、なに。森にはちゃんと道があって川には橋が掛かってるじゃない。それに自分の子供を心配しない親がどこに居んのさ。あたしだって、そりゃ出来れば行かせたくないよ。でも、明日にでも出発させなきゃマズいんだろ? だったらしょうがないじゃないか。先方だってかなり待ってるんだろうしさ」
男は腕をさらに組み直し、唸り声を上げた。
「それにあの子にもいい経験になるよ。あの子は温和し過ぎるし、ちょっとぐらい手荒な方がいいのさ。帰ってきたら剣とかに興味持つかも知れないじゃないか。手が掛からない子だったけどね。それじゃあ、いけないんだよ。獅子だって子供を谷に落とすだろ? あの子にはそれが必要なんだよ」
女はそう言い切ると木のカップを悠然と傾けた。
しばらく男は頭を傾け代案を捻り出そうとしたが、代案のダの字も出てこなかった。男は大きく溜め息を吐いた。
「――しょうがない。キースに行かせるか…… 寄りによって青っ白いキースに行かせなきゃなんないとはな……」
男の言葉に女は肩を竦ませた。
「しかたがないじゃないか、鍛冶屋のしきたりなんだから。そんなに不安なら、隣りのガイルも借りりゃいいだろ。女が届けていいなら、あたしが行くさ」
「そりゃダメだ! 炎の女帝が嫉妬する」
女は再び肩を竦ませた。
「ほら、言わんこっちゃない。キースしかいないんだよ」
男は再び大きく溜め息を吐いた。