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最強大賢者と賢者見習いの弟子  作者: 戸津 秋太
一章 『落ちこぼれ大賢者と禁忌の力』
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五話 『二人目の大賢者』

「ふむ……」


 ロイドの家は二階建てとなっている。

 一階には応接間や食堂などの部屋があり、二階にはロイドやアイラの自室、それから客間が三部屋程ある。


 そしてロイドは今、そのいずれとも違う場所――地下室にいた。


 全面を石のレンガで覆われたこの地下室はロイドの仕事場――所謂、賢者の工房という奴だ。


 辺りにはテーブルやイス、そしてその上にはおびただしい紙の束や硝子瓶などが乱雑に積まれている。


 工房の明かりは天井から吊り下げられている数十のランプだ。

 ゆらゆらと揺れる明かりの下で、ロイドは細長い小瓶を前に顔をしかめていた。


「もうちょっといけるな」


 今持っていた小瓶を引き出しにしまい、新しい小瓶を取り出す。

 そして近くの大釜に張られている水の中に小瓶を入れて、中一杯に水を入れた。

 それから小瓶の口に手の平を向ける。


 いつになく真剣な表情でロイドは意識を集中させる。

 次の瞬間、ロイドの手の平から白い光が溢れ出し、そしてそれは水の中へと溶け込んでいく。

 やがて手の平から放出される光はおさまり、代わりに小瓶の中に入っている水が白く光り輝く。


「っと、こんなもんか」


 光り輝く水をランプの光にかざしてから、ロイドは頷く。

 そしてテーブルの上に置いてあったコルクで水瓶に栓をした。


「ほら、新しいのだ。古い奴は中身を捨ててそこらへんにおいといてくれ」


 ロイドの今の行動を工房の隅から静かに見つめていたアイラに小瓶を渡しながら告げる。

 それを受け取ったアイラはロイドの言葉に頷いた。


 この小瓶の中に入っている光り輝く水こそが魔力水だ。

 魔法を使い、体内の魔力が枯渇した際にこの水を飲むとすぐさま魔力が補充され、魔法を使えるようになる。


 だが、この魔力水を作るのにはやはり相当の腕が必要であり、こういう時もアイラは目の前の男が世界を救った英雄、大賢者であると認識する。

 しかし――


「じゃあ俺は寝るわ。すげえ疲れた」

「何言ってるんですか。まだお昼を食べたばかりですよっ」


 この大賢者は、常に自堕落な生活を送っている。

 たまにカッコいいところを見せたかと思えば、すぐにベッドに潜ろうとするのだ。


 引き留めようと彼が纏うローブの裾を掴もうとしたその時、一階からドアが叩かれる音がしてハッとその手を止める。


「お客様ですかね?」

「みたいだな」


 仕方なくロイドを残してアイラは階段を上って玄関へと向かう。

 その隙をついて、ロイドはこっそり忍び足で自室に滑り込んだ。


「だー、つっかれたぁ」


 ローブを脱ぎ捨ててベッドに跳び込み、ロイドは疲労困憊の様子を見せる。

 アイラはロイドがただダラダラしたいから冗談で疲れたと言っていると思っているらしいが、今のロイドの姿は正しく疲れた者そのものだ。


「あの程度のことでこれだけ疲れるとはな……いよいよもって俺もやばいか」


 手の平を天井にかざしながらロイドは無感情のままに呟く。

 脳裏で忌々しい存在の最期の言葉が流れる。

 それを振り払うように仰向けの体勢からうつ伏せになり、顔をベッドに押し付けた。


「――ド! ロイド、ロイド!!」

「おわっ、急にどうした!」


 勢いよくドアを開けて息を荒げながら興奮した様子で跳び込んできたアイラに、先ほどまでの表情を一転、驚きに満ちた表情で跳びはねる。

 ロイドの問いにアイラは息を落ち着かせながら、しかし一向におさまらず途切れ途切れに答える。


「その、今玄関に、大賢者様が……」

「ん? 大賢者がどうした」

「だから……ッ、大賢者様が、来て――」


 必死に起きたことを伝えようとするアイラ。

 しかしその言葉は、ドアから現れた人影の放った声で遮られた。


「――ひさしぶりー、ロイド。元気にしてたぁ?」


 満面の笑みを浮かべながらロイドに手を振り再会の挨拶を口にする女性。

 彼女が羽織る黒いローブの胸元には、ロイドがつけているものと同じ金色に輝く勲章がつけられていた。


「レティ……!」


 彼女の姿を視認すると同時に、ロイドは目を見開いて目の前の女性の愛称を口にした。

 そして、アイラが慌てふためいていたその理由を理解する。


 レティと呼ばれた女性は腰ほどまでの亜麻色の髪を靡かせながら、その碧眼をロイドに向けている。


 彼女こそが、三年前にロイドと共に魔王を討伐した大賢者の一人、レティーシャ・メイシーだ。


 レティーシャはロイドの妹弟子だが、ロイドと歳が同じため二人は幼馴染のような関係だ。


 だが、レティーシャとは魔王を討伐してから三年、一度も会うことがなかった。


「どうしたんだよ、急に」

「えへへ、びっくりした?」

「当たり前だろ」


 おどけた笑みを浮かべながら悪戯が成功したことに無邪気に喜ぶ幼馴染に呆れ交じりのため息を送りながら、ロイドはベッドから降りる。


「……まあいい、取りあえず話を聞いてやるよ。アイラ、お茶を用意してくれ。応接間だ」

「は、はい……!」


 場に置いてけぼりだったアイラにロイドはそう指示する。が、それをレティーシャは「ちょっと待って!」ととめる。


「なんだ? 急ぎの用か?」

「そういうわけじゃないんだけど、先に紹介しておきたい子がいるの。ほら、フィル。そんなところにいないでおいで」


 顔をドアの外、廊下へ向けながらレティーシャが誰かを呼ぶ。

 少しの沈黙ののち、ゆっくりと現れたのは一人の少女だった。


「初めまして、ロイド様。フィル・ローリーです」


 水色の髪をツインテールで纏めた少女は、青い瞳を真っ直ぐにロイドに向けながら挨拶をした。

 それに反射的に頭を下げながら、ロイドは説明を求める視線をラティーシャに送る。


「ふっふっふ、聞いて驚かないでよロイド。この子は私の弟子よ」

「ああ、なるほどそういうことか」

「驚いてない!? ……まあそうだよねー。ロイドにも弟子がいるんだもんね」


 ラティーシャは納得したとばかりにうんうんと頷きながらアイラに視線を送る。


「で、一体ラティは弟子を引き連れて一体何の用があって三年ぶりに幼馴染の家を訪れたんだ」

「そうだね、じゃあその話を。ちょっと場所を変えよっか」


 ラティーシャの言葉で、今度こそアイラはお茶の準備に部屋を出る。

 そしてロイドはラティーシャたちを応接間へと案内した。

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