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最強大賢者と賢者見習いの弟子  作者: 戸津 秋太
一章 『落ちこぼれ大賢者と禁忌の力』
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二話 『大賢者の教え』

 グランデ村は簡素な木の柵で囲まれている。

 そしてグランデ村の東西南北にそれぞれこれまた簡素な木造の門が設置されている。


 グランデ村の北門をでて小高い丘を越えた先には、アイデル王国最大の、世界でも有数の広さを誇るグランデ大森林が見える。


 ロイドとアイラの二人はその大森林に迷うことなく入っていく。

 徐々に自然が外界からの侵入者を拒まんとばかりに鬱蒼と木々が生い茂り、道も狭くなっていく。

 それを更に歩いたところで、開けた場所が見えてきた。


 木々に周囲を囲まれ、奥には切り立った崖がある。


 魔法の修行を行う際、流石に村の中で行うわけにはいかない。

 ここが二人のいつもの修行の場というわけだ。


「じゃあ俺はここで見てるから、適当にやっといてくれ」


 到着すると同時にロイドはひらひらと手を振り、欠伸をかみ殺しながら草花の生い茂る地面にそのまま横になった。

 その態度を見て、アイラはわなわなと拳を震わせる。


「ロイド、いい加減新しい魔法を教えてくださいよ! 先月からやっていることがまったく変わらないじゃないですかっ」

「んー、そうだな。まあ俺の目から見て今覚えている魔法をきちんと使えるようになったら考えてやるよ」

「もう!」


 薄く目を開けて、叫ぶアイラを見ながらロイドは面倒そうに応える。

 それもまたいつものやり取りで、アイラはロイドに背中を向けた。


「ちゃんと見てくださいよ、私はもうきちんと使いこなしているんですから」

「ほう?」


 アイラの言葉に、ロイドは僅かに眉を動かし、ゆっくりと上体を起こす。

 視界には切り立った崖に向くアイラの姿。

 彼女は両手を重ねて崖に向けて突き出すと、目を瞑りながら言葉を紡ぎ出す。


「《其は世界の理を示すもの、摂理を司り、万物を支配するもの。我は請う、理の内に在るものに、流動の理を》!」


 直後、アイラの手の先から膨大な威力をもった紫電が駆ける。

 放たれた紫電はすぐさま目の前の崖にぶつかり、その威力を露わにした。


 辺りに響き渡る轟音。その音に重なるように、崖が崩れる音が二人の耳朶をうつ。

 そして、強烈な威力の紫電によって崩された岩の山が真下にいるアイラに降り注ぐ。


「きゃぁっ!」

「――んのっ、バカ!」


 反射的に悲鳴を上げながらその場にうずくまるアイラを見て、ロイドはすぐさま杖を握って彼女の下へ疾駆する。


 そしてロイドがアイラの下に辿り着いた直後、岩石の雨が降り注いだ。


 ガラガラガラと削り取られた岩石があらかた降り注いだ後、しばしの静寂が訪れる。

 その静寂を切り裂いたのはロイドの呆れた、そしてどこか怒りを孕んだ声だった。


「たくっ、何やってんだお前は」

「ロ、ロイド……」


 自分の傍らで杖を宙に掲げるロイドを、アイラは涙目で見上げる。

 彼の杖の先には白く光る魔法陣が展開されていて、それが落石から自分たちを護ったのだとすぐに理解した。


 ロイドは杖を降ろすと片膝をついて目線の高さをアイラと合わせる。

 そして目尻に涙が溜まった彼女の紫紺の瞳を真っ直ぐと見つめながら、頭を優しく叩いた。


「魔法ってのはな、ただ威力が高ければいいってもんじゃないんだよ。自分自身を危険に陥れるような使い方をする奴は賢者じゃない。魔法に扱われているだけのただの魔法使いだ」

「…………」

「使いこなしているっていうなら、せめて威力を制御できるようになってからにしろ。――それと、今のでもう一つ、お前の行動に悪かったことがある。わかるか?」


 先ほどまでとは打って変わって真剣な声色で語り掛けてくるロイド。

 彼の問いに、アイラは力なく首を横に振った。


 そんな彼女の肩にロイドは手を置き、それから答えを告げる。


「それはな、予想だにしていなかった状況を前に、お前が何もしなかったことだ」

「――!」


 ロイドはつまり、岩石が降ってくる状況を前にただうずくまることしかできなかったその行動自体を責めているのだ。


「現状覚えている魔法を使っただけでもこの始末だ。そんな奴にさらに危険性が増す高難易度の魔法を教えることができると思うか?」


 アイラは力なく首を横に振り、悔しさのあまり唇を噛む。

 ロイドの言っていることはすべて紛れもない事実で、すべて正しいことだ。

 自分が未熟であることは明らかであり、そのことに反論などできようはずがない。


 自堕落な生活を送るロイドを見て、自分はいつの間にか凄い存在なのだと過信してしまっていたのだろう。


 心に刺さる事実を突きつけられて、アイラはそのまま俯く。

 しょぼくれる彼女のその様子を見て、ロイドは大きくため息を吐き、そして大きな手で彼女の頭を優しく撫でる。


「ま、怪我がないようで何よりだ。弟子ってのはな、師匠の前では幾らでも失敗していいんだ。その失敗から弟子を護るのが師匠である俺の責務なんだからな。これからもお前が失敗したら護ってやる。その代わり、お前はその失敗から存分に学べ!」


 ニカッと、清々しい笑みを浮かべるロイド。彼が口にした言葉をアイラは脳内で反芻する。そして顔を上げてロイドを見つめ返し、


「はいっ!」


 涙を拭いながら師からの教えを心に刻み込んだ。


「――さて、まあ弟子へのお説教はこのぐらいにして……」


 ロイドは顔を上げて辺りを見渡す。

 そして先ほどよりも更に険しい表情で言葉を続ける。


「今の騒ぎで寄って来たか。……アイラ、俺から離れるなよ」


 周囲に集いし瘴気を纏った獣――魔獣を視界に捉えて、ロイドは自らの弟子にそう告げた。

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