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私達(ヒロイン)が見るアナタの背中  作者: モンチ02
女剣士は華麗に舞う
8/12

8



「......姫華」



私が名前を呼ぶと、姫華は一ノ瀬君の肩から降り、両手を大きく開いてこちらに向かって来る。


彼女は勢い良く、私の身体に抱きついた。



「お姉ちゃんだー」


「こらこら、何甘えてるのよ」



そう言いながらも、姫華の頭をよしよしと撫でる。

すると、彼女はくすぐったそうに表情を笑顔にした。



「どうしたの?友達は一緒じゃないの?」



優しく聞いてみると、姫華は顔を俯かせ申し訳なさそうに口を開く。



「うんとね、さっきまで一緒にいたんだけど、皆帰っちゃったの。

姫華も帰ろうとしたんだけど、髪飾りが無くなってて、一人で探そうとしたら、あのお兄ちゃんが手伝ってくれたの」



彼女の頭を見ると、確かに彼女がいつも着けている花形の髪飾りが無くなっている。


確かあれは姫華が母さんにもらった大切な物だ。

無くしたくはないだろう。



「そっか......それで髪飾りは見つかったの?」


そう聞くと、姫華は首を横に振って否定した。

よく見てみると、妹の目元が少々腫れていた。

目が赤くなっているから、泣いてしまったのが分かる。




(困ったわねぇ......)


探すにしても、もう時間的にも暗くなる頃。


どうしようかと悩んでいると、一ノ瀬君が私達の方に来る。



「おっす、アンタ姫華ちゃんの家族か?」


「そうよ。

一ノ瀬君......だよね、姫華と髪飾りを探してくれたんだって?

ありがと、感謝するわ」



頭を下げてお礼を告げると、彼は「いやいや」と手を横に振って、


「泣きながら何か探してたから、ちょっと探すのを手伝っただけだよ。

姫華ちゃんに声かけた時、変質者に間違われなくて内心良かったと思ったぜ。

最近はそうゆうの多いからな」



しみじみした風に言うと、彼は続けて、


「そうだ姫華ちゃん、聞いてくれよ。君に良い物をあげよう」



突然そんな事を口にする彼に、姫華はキョトンとした表情で「良い物?」と呟く。


一ノ瀬君は右手を姫華の顔の前に突き出し、手を開いた。


「あーあったー!髪飾り!」


彼の手の平の上には、姫華の髪飾りが置いてある。


姫華は彼の手の平から髪飾りを取ると、顔をぱぁっと喜ばせ大はしゃぎだ。



「ありがとーお兄ちゃん!」


「いやいや、見つかってよかった」



嬉しいそうにお礼をする姫華に、一ノ瀬君は何も言わず妹の頭を優しく撫でる。


私は少し気になって、彼に問いかけてみた。



「見つけてくれたの?」


そう聞くと、彼は私にしか聞こえない小さな声でこう言った。


「いや、最初から持っていた」


「......えっ?」



え、ちょっと待って。

最初から持っていた?どういう事かしら、意味が分からない。


怪訝な表情をして再度問いかけると、彼はポケットからお札のような物を取り出し、私に渡して来る。


とりあえず受け取り、見てみるが、難しく読みにくい文字が書かれているだけのお札だった。



「これ何?」



「“人払い”の札だ。

この公園の周りに貼ってあった」



「人......払い?」



「ああ。ちょっと気になって来てみたら、姫華ちゃんの友達が誰かに“操られていた”よ。

その友達が姫華ちゃんの髪飾りを取ったんだ。

俺はその友達から取り返した後、姫華ちゃんに声をかけたんだよ」




......。


彼の話しが突然ぶっ飛んだものになって、私の思考が追いつかない。


ちょっと整理しよう。


まずこの公園の周りに、人払いのお札が貼ってあって、一緒に遊んでいた姫華の友達が何者かに操られていた。


で、その友達が姫華の髪飾りを取った。

それを見つけた一ノ瀬君が、その友達から髪飾りを取り返して、姫華に声をかけたという事かしら。



「一ノ瀬君の言っている事が本当なのか分からないけど、だったら誰がどういう理由でこんな事をしたの?」



「そんなのちょっと考えりゃ分かる事だろ」



もったいぶるように言う一ノ瀬君は、後頭部をカリカリと掻くと、



「誰がやろうとしたかまでは分からんけども、誘拐だろ」



「誘......拐?」



「ああ。こんな札まで使って、さらに友達を操って姫華ちゃんを一人にしようとしたんだ。

それ以外考えられん」



彼はそう言うと、「あー肩凝ったー」と言って身体を伸ばす。


そんな彼を他所に、私は酷く動揺していた。



嘘、何で姫華が誘拐なの?

もし一ノ瀬君の言っている事が本当だとしたら、これは相当ヤバイわ。


一体誰が、どういう理由で......誘拐なんてしようとしているの?。


考えを巡らせ。

ここ最近、何か変わった事はなかったか。



『お客さん?』


『須郷家の者です』


『また?本当しつこいわね』


『はぁ、本当なんなのよあの人達』


『では藤堂さん、よくお考え下さい。また来ます』




............。



............。



「............あ」



「心当たりはアンタのほうがあるだろ。

じゃ、俺は姫華ちゃんの知り合いが来るまで一緒にいただけだし、帰るわ」



彼は姫華の頭に手を置き、「じゃあな姫華ちゃん、もう無くすんじゃないぞ」と言って、踵を返した。



......待って。

まだ聞きたい事がある。

ちゃんとお礼も言ってない。


言いたい事はたくさんあるのに、私の口から出たのはこんな言葉だった。


「一ノ瀬君、あなた何者なの?」



こんな事を聞きたいんじゃない。

なのに、不思議と口から出てしまった。


私の問いに、彼は振り返る事なくこう答えた。





「何者でもねぇよ。

サボりグセのある、ただの高校生だ」






公園で一ノ瀬君とあった次の日。


とりあえず、昨日起こった事は両親に話した。

母さんは凄く心配したが、父さんは問題無いと言うばかり。


念の為、姫華の送り迎えは藤堂家に仕える茅野 咲さんが行って来れる事になった。


私は出来るだけ友達と登下校を一緒にしなさいと言われた。

まぁ、優里なんだけどね。



一ノ瀬君に話しを聞こうとしたが、彼は今日も無断欠席。

いないなら仕方ない、明日また尋ねよう。



(もう、関わらないと思ったんだけどね......)



前に一ノ瀬君と話しをした時、もう関わらないだろう思っていたのに、今は彼と話しをしたい。


まぁ、いろいろと聞きたい事があるのと、お礼を言いたいだけなんだけど。




一日の授業が終わり、帰宅の時間。

私は帰り支度をして、待っている優里と教室を出る。



と、その時。


携帯電話に着信音が鳴り響く。

私は携帯を取り出して、画面を見てみる。

非通知だったので何か怪しさを感じられたが、兎にも角にも電話に出た。



電話の相手は、最初にこう切り出した。




『妹は預かった』




「__ッ!?」



電話の相手の言葉に、私は驚愕した。


妹を預かった......?

まさか、姫華が誘拐されてしまったの?



「ちょっと、どういうこ__」



『今からその携帯に地図を送る。そこに一人で来るんだ。

もし一人で来なかった場合、妹の無事は無いと思え』



「アンタ、姫華に手を出したら只じゃすまさないわよ!」



怒鳴り声で叫んだが、通話は既に切れていた。

代わりに、携帯にメールが届く。

そのメールには、電話の相手が話していた通りどこかの地図が載っていた。




「舞華......いきなりどうしたの」


優里が心配そうな表情でそう聞いて来る。

私が突然怒鳴り声を上げたせいか、廊下にいる生徒達も私達に注目していた。


けど、今はそんなの気にしてる場合じゃないわ。


早く姫華を助けに行かないと。



「ごめん優里、用事ができたから先に帰るわ。

優里も気をつけてね」


そう言って、私は踵を返す。

本来だったら優等生を意識してきた私がこんな事はしないのだが、姫華の元へと行く為全速力で廊下を駆けた。



背後で優里が、


「待って舞華!」


と大声を出していたが、私はその呼びかけに返事はしなかった。


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