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学校が終わり、優里とショッピングモールで買い物をした。
気づけば夕方の5時を回っている。
久々に遊んだので、時間も忘れてはしゃぎ回ってしまったようだ。
それは私だけではなく、隣で甘そうなクレープを頬張っている優里もそうだろう。
美味しそうに食べている優里の顔を見ていると、なんだか和んでしまう。
宮幡 優里は一年の時からの友達で、私、藤堂 舞華は彼女の事を親友だと思っている。
同じ時を過ごした時間は少ないが、そんなの関係ないほど、私達は仲が良いのだ。
ふと優里の顔を見ると、彼女の頬っぺたにクリームがついていた。
私はそれを指で掬うと、自分の口の中に入れた。
うん、甘い。
突然そんな行動をとった私に、優里は驚いた顔で口を開いた。
「舞華は私の彼氏か」
「アホな事言ってないで、早く食べちゃいな」
そう言うと、彼女は小さい声で「キュンキュンしたわー」と口にする。
「何か言った?」
「んーん、何も」
何でもないよと、彼女は最後の一口を食べ終わり、満足そうな顔をする。
「あー美味しいかった。
あと百個はいけるね!」
それは無理ね。
「でも、今日は本当に楽しかったなー。久々に舞華と遊べた気がしたもん」
優里の言葉に、そうね、と返す。
私は最近、剣の鍛錬に励んでいた。
誰とも遊ぶ事はせず、ただ剣を一心不乱に振るう。
何故そうしたのか分からない。
ただ、何かに焦っていたのかもしれない。
その何かというのが、はっきりとはしていないが。
黙っていると、優里は心配そうな表情で私に問いかけた。
「舞華、なんか悩み事とかある?」
「......無い、と思うわ。私がそう思っているだけで、本当はあるのかもしれないけど」
そんな風に曖昧に返すと、彼女は「そっか......」と言い、続けて口を開く。
「私なんかじゃ頼りにならないかもしれないけど、困ったら教えてね」
「ええ勿論。優里に言わないで誰に言うのよ」
笑みをつくって当たり前のように言うと、優里は「そりゃそうだ」と言って口を閉じる。
(本当、優里には感謝ね)
能天気な性格をしているが、優里は人の感情に敏感だ。
私が落ち込んでいたりしたら、優しく気をつかってくれたりする。
彼女の優しさに、私はどれだけ救われただろうか。
(私も、優里に何かをしてあげたいなぁ)
そんな事を考えていると、不意にポケットの中にある携帯電話が鳴りだした。
ポケットの中から取り出し、画面を見てみる。
すると、藤堂 雅から着信がかかっていた。
私の母さんだ。
画面を押して、携帯を耳にあてる。
すると、母の声が携帯から聞こえてきた。
『舞華、あなた今何してるの?』
「何って......優里と買い物だけど」
『そう、悪いんだけど帰りに姫華がいつも遊んでいる公園に寄ってくれないかしら』
「いいけど、どうしたの?」
そう聞くと、母さんは心配気な声音で伝えてくる。
『姫華、まだ帰ってきてないの。いつもは5時までに帰ってくるのに』
「母さんは心配しすぎなんだよ。まぁ、帰りに寄ってみるね」
そう言うと、母さんは『お願いね』と言って電話を切る。
私は優里に向かって手を合わせ、
「ごめん優里!ちょっと姫華を迎えに行かなきゃならないから、今日はもう帰るね」
謝るように告げると、彼女はふるふると首を横に振って、
「しょうがないよ、また今度遊ぼ」
「うん、本当ごめんね」
「そんな謝んなくていいって。ほら、姫華ちゃんのところに行ってあげて」
私は「うん」と言って、優里に感謝しながら、
「じゃあね、また今度!」
と言って、姫華がいつも遊んでいる公園へと向かった。
◇
公園に着き、姫華を探す。
可愛い妹を見つけるため、公園の中を見渡していると、あははーと楽しそうな女の子の声が聞こえた。
「よかった、ちゃんといるじゃない」
この声は間違いなく姫華のものだ。
私は安堵のため息をついて、声が聞こえた方へと足を運ぶ。
姫華はいた。
しかし、姫華だけではなかった。
「あははー高ーい!」
「そうだろーそうだろー」
......ん?
姫華はいたが、彼女の他にもう一人。
若そうな男性が、姫華のことを肩車している。
(誰あの人......)
気になる為、目を凝らして男性を見た。
寝癖のある黒髪。
太くも細くもない普通な体躯。
顔は良くも悪くもない普通な顔立ち。どっちかって聞かれたら良いほうだろう。
その理由は、彼の瞳が優しい雰囲気を出しているから、っていう感じだ。
服装は、私の通っている学校の制服。
いわゆる学ランってやつ。
彼は姫華の両足をしっかり持って、軽く動き回っていた。
それに対して姫華は両腕を広げ、わーいと楽しんでいる。
......私はあの男性の事を知っていた。
それも、最近関わったばかりである。
「ん?」
彼、私のクラスメイトである一ノ瀬 守君は私の事に気がつくと、姫華を肩に乗せたままこちらに向かってくる。
すると、姫華も私に気がついたのか、小さな指を指して、
「あっ!お姉ちゃんだ!
お姉ちゃーん!」
と大声で私を呼んだ。