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◇
「はぁー、また舞華に負けちゃったよー。
悔しいなぁ」
「そんな落ち込むことないわ。
私も正直ギリギリだったし......本当優里って組手をする度強くなるわね。羨ましい」
「まぁ、少しずつだけどねぇ。
それでも、舞華にはまだ届きそうにないや」
あははと、優里は軽い感じで笑った。
実技の授業が終わり、教室に戻る廊下を歩く二人。
彼女等は先ほど行った組手の事で話しをしていた。
舞華と優里が組手をし、舞華が勝ったという単純な話し。
しかし舞華は、優里に対してこう思っていた。
昨年と続き舞華は優里と同じクラスになり、組手をする回数が更に増え、彼女は自分と組手をする度に剣技の練度が上がっている気がする。
徐々にではあるが、第四等級剣士の自分に近づきつつあるのだ。
強者と戦う毎に強くなる戦闘センスは、舞華にとって羨ましいものである。
しかし、自分の実力に追いついてくる優里に、舞華は一つも焦りはしなかった。
逆に、抜かされぬよう、もっと精進すべきだと考えている。
藤堂 舞華は、そういう人間なのだ。
二人が談笑していると、前から三人の生徒がやってくる。
舞華はそちらに目をやると、露骨に嫌な顔をした。
そんな彼女の表情を見て疑問に思った優里も視線を前に向けると、そこにいたのは一人の男子生徒と二人の女子生徒。
男子生徒を真ん中に置いて、三人はお喋りをしながら歩いている。
すると、男子生徒が舞華の事に気がつき声をかけた。
「やぁ、藤堂じゃないか!」
「......須郷」
須郷岳人。
舞華と同級生であり、2年2組の生徒。
細身だが背が高く、スラッとした体型。
髪型はパーマがかかっていて、顔は女子生徒から人気があるほど整っている。
九条 光ほどではないが剣の実力もあり、舞華と同じ第四等級剣士だ。
顔も良く実力がある為、男子からはあまりよく思われてないが、女子からは絶大な人気を誇っていた。
そんな彼は、昨日藤堂家に話しをしに来ていた須郷家の長男である。
そして、須郷岳人という男は何かと舞華に遊びの誘いをしていた。
それもかなりしつこい。
断っているのに、何度も誘って来るのだ、この男は。
そうゆう事から、舞華は岳人の事を嫌っている。
須郷は爽やかな笑顔で舞華に話しかけた。
「授業の帰りかい?」
「ええ」
「そうか、いやー君とこんなばったり会うなんて運がいい。
という事で、学校が終わったらお茶でもしないかい?」
須郷が舞華を誘うと、彼の両隣の女子生徒が文句を上げた。
「ええー、今日はあたし達と遊ぶって言ってたじゃーん」
「そうよ、こんな剣馬鹿女なんか誘う意味ないってぇ」
二人の口から出た言葉に、舞華は少しばかり怒りが湧いた。
彼女は心を落ち着かせて、冷たい眼差しで須藤を見る。
「悪いけど、今日は優里と用があるの」
そう断りを告げると、須郷は肩をすくませ、
「それは仕方ないな。また今度誘うよ」
そう言って、須郷は女子生徒二人を連れて舞華の元から去ろうとする。
そんな彼に、今度は舞華から鋭い声音で問いかけた。
「ねぇ、あなたの家の連中が何度も私の家にちょっかいかけてきて目障りなんだけど。
どうにかならない?」
彼女がそう言うと、須郷はくるりと振り返って申し訳なさそうに答える。
「ごめんね、家の者が迷惑かけて。父が煩いんだよ。
悪いけど、僕が言ってもどうにもならないかな」
「そう......ならいいわ」
期待していた訳ではない。
ただ言ってみただけだ。
舞華は、もう用は無いと言わんばかりにこの場から去ろうとする。
そんな彼女に、須郷は嫌らしい目付きでこう聞いた。
「でも藤堂、僕も思うんだ。
藤堂家と須郷家が力を合わせれば、もっと大きな勢力になるって。
君はそう思わないかい?」
藤堂の問いかけに、舞華は一切振り返る事なく、キッパリと告げた。
「全く思わないわ」
舞華はそう言うと、優里を連れて教室に戻る。
彼女の後ろ姿を眺めながら、須郷は小さい声で呟いた。
「待ってろ舞華、もうすぐ君は僕の物だ」