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星月峰剣闘学園は剣士を育成する為の学園だ。
その為必然的に実技の授業は多くなる。
今日も今日とて、舞華のいる2年6組は実技の授業を行っていた。
今は担任の北条沙耶香が話しをしており、生徒達は修練場の床に座って黙って聞いている。
沙耶香は歩きながら、剣士についての話しを行っている。
「現代には様々な流派が存在するが、その多くの流派の内、代表的な流派が五つある。
勝野井、言ってみろ」
「えー先生ー、何で俺なんすかー」
文句を言う勝野井という男子生徒に、沙耶香は全く笑っていない笑顔で口を開いた。
「お前の相方である一ノ瀬がサボった罰だ。
文句を言うならあの馬鹿に言え」
そう言い放つ沙耶香に勝野井、勝野井 正は「げぇー、トバッチリかよぉ」と落胆する。
舞華はそのやり取りを見ながら、こう思っていた。
(一ノ瀬君、またサボってるのね)
昨日、自分にいろいろと考えさせる話しをした男子生徒。
サボらないように、とは注意したのだが、どうやら意味はなかったようだ。
正は文句を言いながら、面倒くさそうに説明する。
「代表流派だろ。
えっと、桂木流と洞山流。
それに境一新流と九重流。
それと後......神明流だっけか」
「おおー、全部答えられるとは凄いじゃいか勝野井。
先生涙が出そうだ」
つまらない沙耶香の冗談に、正は「へいへい」と適当に流す。
「つまらない奴め。
じゃあ、その流派の特徴を説明してもらうか。
そうだな......東雲、言えるか?」
沙耶香に名指しをされた女子生徒は「は、はい!」と大声で返事をする。
緊張してるなぁ、と舞華は小さく微笑み、その女子生徒を見た。
昨日の昼休みの時、一ノ瀬 守にご飯のおかずをあげていた少女だと思い出す。
確か名前は、東雲 春香だった。
春香ははっきりとした大きさで、五つの流派の特徴を説明した。
「桂木流は、純粋な力技で相手を圧倒する攻めの流派です。
洞山流は守りの流派で、完全なる後の先をもって相手を倒します。
境一新流は攻めの流派ですが、桂木流のような力技ではなく、徐々に相手の力を削いで倒す流派です。
九重流は攻めと守りの万能型の流派です。時には攻め、時には守る。それは当たり前なんじゃないかと思われますが、九重流の剣技を会得するのは難しいと言われています。
最後に神明流ですが、この流派は主に守りの流派です。
相手の力を利用し、戦いをコントロールするような剣技です」
以上です、と説明を終える春香。
彼女は大きく息を吐くと、緊張したーと近くの友達と笑っていた。
それを見た舞華は、少々ほっこりとした気分になる。
まるで妹が発言したような感じがした。
春香の説明に、沙耶香は満足気に首を縦に振って、潤った唇を開いた。
「まぁ、おおよそはそんな感じだろう。
他にも流派はいろいろあるが、基本はこの五流派がベースとなっている」
そう言うと、彼女は「次に」と話しを続けて、
「剣術協会では、剣士の実力を五段階で分けている。
下が五で、上が一だ。
この五段階の実力を決めるには、剣術協会による試験に合格した者がなれる。
お前らはこの学園に入った時点で、第五等級剣士の資格を持っている筈だ。
まぁ、上の資格を取る為の試験は非常に厳しい為、お前らは卒業するまで四等級になれるかなれないかってぐらいだし。
中には、既に第四等級、第三等級の資格を持っている奴もいるがな」
沙耶香がそう言うと、クラスの生徒達は皆、九条 光という男子生徒に視線を向けた。
彼は既に、第三等級剣士の資格を持っているのだ。
それは並大抵の実力ではない。
沙耶香が今言ったように五から四に上がるまでも至極難しいのに、光は第三等級の資格を得ている。
それは彼が、実力者という証だ。
ちなみに、舞華は第四等級剣士だ。
三等級の試験は何度か受けているが、まだ合格していない。
クラスの視線を釘付けにした光は、「あはは」と笑顔で受け流した。
「お前等の知っている通り、そこにいる九条はもう第三等級剣士だ。しかも、九重流の剣術を“参式”まで会得している天才だ。
いろいろと教えてもらうといい」
彼女が光を褒めるように口にすると、彼はやめて下さいよと謙遜した。
舞華も、光の事は一目置いていた。
彼と何度か剣を合わしたが、一度も勝った事はない。
いいところで剣先がかするぐらいだ。
舞華にとって光は、一番短かな超えるべき壁となっている。
光の話題で盛り上がっていると、正が不意に沙耶香に質問した。
「さっちゃんは何等級なのー?」
「先生をさっちゃんと呼ぶな馬鹿。前に言っただろう、私は第一等級剣士だ」
「うへー、さっちゃん綺麗なうえに強いのかよ」
驚く正に、沙耶香は自慢気に「だろう?」と鼻高く答える。
どうやら彼女は、資格よりも綺麗と言われたほうが嬉しかったようだ。
沙耶香は機嫌を良くし、「じゃあ......」と言ってクラスの生徒達を見渡しながら、
「まぁ、話しはこれぐらいにして、一対一の組手をやるか。
とりあえず好きな相手と組め。
戦いたいやつでもいい。
サボろうとした馬鹿者には強制的に私が相手をしてやろう」
彼女がそう言うと、生徒達はペアを組み、木刀を手に持って組手を始めた。
舞華も、たまには光以外の生徒と組手をしようと、近くの生徒に声をかけて組手を始めたのだった。