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私達(ヒロイン)が見るアナタの背中  作者: モンチ02
女剣士は華麗に舞う
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女剣士は華麗に舞う



「はぁぁ!」


気合の入った叫び声を上げ、木刀を上から下に鋭い一閃。


その剣筋を、身体を逸らして紙一重で躱す。


「ふっ、やるなぁ舞華(まいか)



星月峰剣闘学園(ほしがみね けんとうがくえん)に幾つもある練習場の中の一つで、二人の生徒が組み手をしている。


授業で行っている為木刀を使用しているのだが、二人が行う組み手はギャラリーが湧くほど凄まじかった。



「油断してると、一本取るわよ」


剣を打ち合っている二人の内の一人、女子生徒が笑みを作りながら言った。


もう一人は男子生徒。

彼は顔に余裕の表情を貼り付け、問題ないと言わんばかりに木刀を振るう。



ヒュンっと、男子生徒の振るった木刀が女子生徒の耳を通りすぎた。


速い。

いや、速いなんてものじゃない。

二人の放つ剣速は、すでに人間が振るえる領域ではなかった。



それもそうだろう。

二人は、体内に秘めた『気』で体を強化し、身体能力を底上げしているのだから。



『気』とは、古来より伝われている不可視の力だ。


誰もが備わった『気』を意識的に扱っている事で、二人は常人離れした動きで組み手を行っている。



「そこまで!」



そろそろどちらかが先に一本取ると思われたその時、勝負の終わりを告げた者がいた。


「二人とも、今日のところはその辺にしときなさい」



優しい声音でそう言うのは、授業を行っているこのクラスの担任、北条(ほうじょう) 沙耶香(さやか)だ。


今年で24を迎える彼女は、傍から見ても美しいと言える。

女性にしては高い身長に、抜群のプロポーション。

長い髪は少しぼさっとしているが、それが気にならない程の端正な顔。


男子生徒の憧れの的である彼女は、二人に向かって潤った唇を開いた。



「お前ら二人が組み手をしたら本当に長いな。今度は組み合わせを考えよう」



沙耶香がそう言うと、女子生徒は「そうですか…」と少し残念そうに答える。



この女子生徒の名前は藤堂(とうどう) 舞華(まいか)

星月峰剣闘学園高等部2年6組の生徒であり、由緒ある藤堂家の長女にして、天才と言われる実力を兼ね備えた少女だ。



艶のある長い黒髪を一つに纏め、沙耶香程でもないが、高校生にしては凹凸のはっきりしている身体。

どごぞのアイドルよりも可愛いらしいその顔は、男子生徒を無条件で虜にしている。


容姿も実力も兼ねたスーパー美少女が、藤堂舞華だ。



「やだなぁー先生。

そんなに藤堂と打ち続けられる訳ないじゃないですか」


そう言ったのは舞華と組み手をしていた男子生徒、九条(くじょう) (みつる)だ。


剣豪六家に入る剣の名家。

その長男にして、今現在、舞華と同じく星月峰剣闘学園の上位に入る生徒だ。



高い身長に、無駄な筋肉が一切無い体躯。

男性にしては少し長めの金髪に、女性を一発で虜にしてしまうような甘いマスク。


彼が廊下を歩けば、女性生徒達の黄色い叫び声は止まないという噂もある。

まぁ、かなり迷惑な話しだが。



光が言った言葉に、沙耶香は「お前がそれを言うか…」とため息を着いて、



「はぁ、もういい。

お前らは下がってろ」



「はい」


「分かりました」


沙耶香が下がれと言うと、二人は素直に練習場の端っこに移動する。


そこには、2年6組の生徒達が楽した体制で座っていた。


舞華と光の組み手を見学していた生徒達は、二人を褒め称える。





「すごかったぜ藤堂さん!

正しく闘う女神だった!」


「う、うんありがとう」



「九条君かっこよかったよ!

やっぱりすごい強いね!」


「うん、ありがとう」


舞華が引きつり気味に、光ははにかんだ笑顔で答える。


二人が礼を言うと、男子も女子もキャーキャー騒ぎ出した。


煩くなった生徒達に、沙耶香は「うるさい、単純バカ共」と言うと、続けて口を開く。




「次の組み手は誰にやってもらおうか……。

うーんと、」



沙耶香は次に組み手を行ってもらう生徒を決めようと、端っこから生徒達を眺める。


すると、練習場の端のほうに二人の馬鹿がいた。



「リンゴ」


「ゴマ」


「マントヒヒ」


「飛行機」


「きつつき」


「あっ、きったね!

き、き、キノコ」


「駒」


「マッチ」


「チ○コ」


「はい駄目ーお前の負けー」


「はぁ!?何でだよ!」


「そりゃあお前、下ネタは言っちゃだめだろ。時と場所を考えようぜ」



バゴッ。


「「痛って!?」」



「あーまったくもってその通りだ馬鹿二人。

時と場所を考えてそういう下らん事をするんだな」



「「へ、へーい」」




授業中にしりとりゲームなんてしていた馬鹿な男子生徒二人に愛の拳骨をお見舞いした沙耶香。


彼女は恐い表情でただ一言。


「出ろ」



反論したかったが、どうしても二発目の拳骨が来るのが分かったので、二人の男子生徒はよっこいしょと立ち上がる。


(まもる)のせいだぞ」


(ただし)がやろうって言ったんじゃねぇか」


二人が責任のなすり合いをしていると、背後から「早くしろ」と脅しをかけてきた。



二人は木刀をもって駆け走で練習場の真ん中に向かう。


沙耶香も二人についていき、開始の合図を口にした。



「始め!」



その言葉に、二人の組み手が始まる。

しかし、その組み手は先ほど舞華と光が行った組み手と比べて月とスッポンというレベルだ。


もはや二人の組み手は、子供のチャンバラにしか見えない。



と、二人の組み手を眺めていた舞華はそう思った。


この剣の名門校である星月峰に来て一年が経ち、これほどしか実力が上げられなかったのかと呆れる始末だ。


(本当……チャンバラにしか見えないわ。ってか真面目にやってんの?)



舞華の瞳に映る男子生徒二人の組み手は、自分に比べて真剣に行っているとは思えなかった。


舞華は壁に寄りかかり、組み手を眺めながらこう呟いた。




「気にいらないわね」







剣の実力が全てを決める時代。


『気』によって、動体視力や反射神経を含めた神経系や肉体が極限まで強化され、銃火器が不要になった時代。



そんな時代に生まれた藤堂舞華は、様々な理由があって剣の実力を付けた。


それはもう、一生懸命に。

時には血反吐を吐く時もあるほど修練した。


だからだろうか。

先ほど行っていた男子生徒の組み手を目にし、彼女は機嫌を悪くした。

ムカついた、イラついた。


実力が無いのは仕方がない。

だが、遊び半分のような気持ちで学園(ここ)にいられても何か腹が立つ。



特に二人の男子生徒の内の一人。

確か、一ノ(いちのせ) (まもる)とかいう生徒だ。


いつも授業はまともに聞かないは、偶にサボるわ。

組み手の授業は寝てるか、やっても適当に流す。



はっきし言って、邪魔だ。

邪魔な存在だ。


2年生になって同じクラスになり一ヶ月と少し。

舞華は、一ノ瀬 守という生徒に癖壁していた。


担任の沙耶香にも聞いてみた事がある。


彼は何故真剣に取り組まないのかと。


そしたら彼女はこう答えた。



「うーん、まぁ授業をサボるのは良くねーよなー。私も言ってるんだが、あの馬鹿は何度言っても聞きゃあしねぇ。

組み手のほうは……まぁ大目に見てやってくれ」



「何でですか?」



「そりゃまぁ、あの馬鹿が本気になったら、相手にならんだろ」



「......誰がですか?」



「もちろんお前らが」




意味が分からなかった。


この土日で完結します。

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