第1話 入学式
2075年
日本、東京
「....さん......きて.....」
意識の向こうで誰かが俺を呼ぶ声がする。
「....にいさん....おきて....」
やがて声ははっきりしたものとなる。
俺、東藤樹が目を開けるとそこには一人の少女が立っていた。
「...兄さん....おはよう...」
少女が俺に声をかける。
「おはよう、桜」
彼女は俺の妹の東藤桜。桜は基本的に無口な少女で親しい仲の人としか話さない。
「...朝ごはん...できた....」
「わかった。すぐ行くよ」
食卓に付くと既に父、柊が朝食を食べていた。
「樹、今日は高校の入学式だろ。急ぎなさい」
「分かってるって。いただきます」
そう言って食べ始める。
「.....いただきます.....」
桜も隣に座り、食べ始める。
「しかし、樹が高校生とはな...。母さんにも見せたかったよ」
そう言って、仏壇を見つめる父。
俺たちの母、梢は10年前に亡くなってしまった。
死因は病気だ。
「ご馳走さま」
朝食を食べ終えると、自室に向かった。
着替えを済ませ、高校に行こうとすると
「....兄さん....途中まで一緒に....」
と桜が声をかけてきた。
「ああ、いいよ」
そう返事をする。
「行ってきます!」
「...行ってきます...」
二人は家を出る。
俺が通う事となった東楼学園は魔術者のみを集めた高校である。
また、魔術者のみの学園は東楼学園の他に北海道の北棲学園、石川の石檜学園、
福岡の福葉学園、仙台の仙喬学園、大阪の大扇学園、愛知の名燗学園がある。
この七校は『魔術学園』と呼ばれている。
途中、桜と別れ学園についたが、少し早く来すぎてしまったようだ。
「よお!樹」
そんな樹に後ろからある人物が声をかける。
振り向くとガタイのいい男子生徒が立っていた。
「なんだ、榊か」
彼は小向榊。小学校からの友人だ。
「なんだ、じゃないだろ。お前の家に行ったらもう出たって親父さんが言うから走ってきたのに」
「そうだったのか、すまんな」
「まあ、いいけどよ。とりあえず入学式会場の講堂に行こうぜ」
俺は榊とともに講堂へむかった。
ここ東楼学園は1学年250人、全校生徒750人の大きな学園だ。
クラスはA~Eの5クラスに分けられる。
分け方は成績順らしい。
退屈な入学式も終わり、クラス分けが発表される場所へ向かう。
「にしても、生徒会長美人だったな~」
「すまん、寝てたから分からん」
「おい、お前また目開けながら寝てたのか!?」
実は俺は昔から目を開けながら寝る癖があるのだ。
「え?また目開いてたのか.....」
そんな会話をしながらクラス分けの発表場所に着いた。
クラス分けの発表は機械に学生証をスキャンするだけと言うもので実に便利だ。
皆機械に並んでいる。
自分も並ぼうとすると誰かにぶつかった。
振り向くとそこには誰も居なく、学生証が落ちていた。
「....名塚....榛名....」
書いてあった名前を読む。
「.....呼びました?」
と言う返事がした。
そこには黒髪ロングの美少女が立っていた。
「君が名塚さん?」
念のため名前を確認する。
「ええ、そうですけど....」
「学生証、落としたよ」
そう言って学生証を手渡す。
「すみません、ありがとうございます」
彼女は学生証を受け取り、足早に去っていった。
「どうした?樹」
榊が声をかけてきた。
「いや、ちょっとね.....」
この時俺は何故か彼女のことが気になってしまった。
「どうでもいいが、さっさと済ませて帰ろうぜ」
「悪い。この後、部活見学したいから先帰ってくれないか?」
そう告げると
「そうか、俺は用事があるから先に帰るよ」
と言われた。
この学園では入学式の日から部活勧誘が始まっている為、部活見学もできる。
クラス分けの結果はどちらもA組だった。
榊は先に帰り、一人残された俺は声をかけられた。
「ちょっといいかしら?」
雰囲気からして先輩だろうか。
「えっと.....どちら様ですか?」
先輩かどうか確認しなければ。
「ごめんなさい。生徒会長の神崎恋歌です。
入学式で挨拶したのだけれど....覚えて無いかしら?」
どうやら先輩で合っていたようだ。しかし、生徒会長が何の用だ?
「すみません、実は入学式は寝ていましたので....」
流石に怒られるかと思ったが
「そう、私も退屈で眠たかったわ」
と言ってきた。生徒会長と言っても案外普通なんだな。
もっとお堅い人かと思っていた。
「それで生徒会長が何の用ですか?」
「率直に言うと生徒会に入って欲しいのよ。入試次席のあなたに」
樹は驚いた。
勧誘されたことにではない。
『自分が次席だということ』に。
「あら、驚いているの?思ったより成績が良かったのかしら」
「いいえ、逆です。自分より上はいないと思ってましたから」
「随分、自信家なのね」
俺は今まで成績は常にトップだった。
その為、同世代で自分より上の人物を知らない。
それに自分の魔法が他とは違うことも自信の一つだった。
「筆記は良かったんだけど実技が少しね....」
「やっぱりそうでしたか」
正直実技は苦手だ。何故なら疲れるから。
「体力に難あり。ってところかしら?」
どうやらお見通しのようだ。
「生徒会の話はお受けします。ただ一つだけいいですか?」
「なにかしら?」
「主席の人の名前教えて貰えませんか?」
やはり気になってしまう。
「本当はダメなんだけど.....いいわ。教えてあげる」
「ありがとうございます」
「たしか....名塚榛名だったかしら」
俺は驚いた。先ほど学生証を拾った彼女が主席だとは...。
「そうですか。ありがとうございます」
「いいのよ」
「彼女も生徒会に入るんですか?」
「誘うつもりではいるんだけど見当たらないのよね~」
「そうですか。自分はこれで」
そう言って頭を下げる。
「後日、生徒会の紹介をするわ」
「分かりました。では」
俺はその場を去った。
こうして俺の学園生活の幕が上がった。