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この世の始まりと終わりの物語  作者: スギノ ヒロ
1/1

フードの男

冷たい風が頬に吹き付ける。

辺りは薄暗く、裸足で歩く道は寒い。

かじかんだ手を必死にこすり合わせる。

意識が朦朧とするが歩き続けなければならない。

生と死の狭間というのはこういうことであるのか。

いや、いつも生と死の狭間にいた。

だけどもう少しで明るい未来が待っているのかもしれない。

信じるしかない。

あの男を。

あの奇怪な出来事をー。



ー2週間前ー



デレクリトールサーカスにあるひとりの男が訪れた。

あご髭を生やし、黒いマントのフードを目が見えない程度に深く被っている。

「ヒィータスはいるか。」

暗く低い声で受け付けの若い男に尋ねた。

「面会のご予約は?」

「してないが…昔の友人なんだ。」

「そう言われてもねー、そう言って団長に近づこうとする人も多いからむやみに入れたりはできないんだけど」

そう言われたフードの男はチッと舌を鳴らした。

「…ネイヴだと伝えてくれ。」

「へぇ…知れた名だね。

OK。少々お待ちを。」

そういうと若い男は手元にあった黒い電話を手に取り、頭を掻きながらネイヴと言う男が来ていると話した。

しばらく話した後、受話器を置いた。

「団長はまだ帰ってないらしいから中のビジタールームで待ってろってさ。

いつ帰るかわからないから明日になるかもしれないけどいいの?」

「充分だ。どうもな。」

そうつぶやきゲートを開けてもらい、マントの男は歩いて行った。

「あ!ネイヴさん!」

中に入ろうとすると受け付けの男が手を振って叫んだ。

マントの男が立ち止まる。

「応援してますよ!よかったらサーカスも見に来てよ!」

マントの男はにやりと笑い、

「ヒィータスのサーカスなんざ心臓に悪すぎて観れねぇな。おまえもあいつには気をつけといたほうがいいぜ。

ありゃ常人じゃねえからな。」

そういうと受け付けの男はにかっと歯を見せ、「知ってます!」と叫び、再び歩き出すマントの男に手を振った。


中は暗く薄気味悪い所だった。

湿気と異臭がただよい、地面は感触の悪い物を踏んで歩かなければならない。

苔がそこら中に生え、ねずみやコウモリが行き交う。

しばらく歩いたところで鉄のような臭いがした。

壁にべったりとついたどす黒い液体を触ってみる。

「血だ。」

なぜ血がこんな所に…。

不思議に思いながらも歩き出した。

またしばらくすると、銀の大きな鉄格子が幾つも見える。

臭いは一気に増した。

吐きそうになり、必死に口と鼻を抑える。

鉄格子がはっきりと見えるようになった。

「あ、あれは…」

思わず立ち止まった。

中にいるのは薄汚れ、精気の抜けた人間だった。

目が死んでいる。

顔や服には血がべっとりと付き、身体の上をウジ虫が這い回っている。

手首と足首には錆びれた手錠が壁と鎖でつながっていて、身動き一つできない状態だ。

その地面には赤黒くぐちゃぐちゃしたものやネズミやらゴキブリやらの生物がしきりに動く。

見た所中にいる人間は若い青年だ。

もう人間と言うよりは化け物と言ったほうが正しいだろうか。

まともな姿を留めていない。

頬はやせこけ、身体は骨の形がくっきりと分かるほど。

服と言うより茶色く変色したボロボロの布切れをまとっている。

唯一まともな物と言えば首からぶら下がっている金のロケットくらいだろうか。

フードの男は青年の正面に立った。

「おまえ、どこの出身だ」

「……」

返事はない。

話せないのか聞こえていないのか…。

ガンッ!

今度は鉄格子を思い切り蹴った。

すると青年の身体はビクッと揺れ、繋がった鎖がカタカタと音を鳴らす。

「なんだ、聞こえてるなら返事くらいせんか」

そう言って眉間にシワを寄せる。

見開かれた青年の目がフードの男を捉える。

そして目が合ったとたんにまたすぐに下を向いた。

チッと舌をならし、フードの男はまた前の方へ歩いて行った。

青年は再び目をネズミの方へ戻した。

チョロチョロと足元へやって来たネズミを一瞬で両手で捉え、顔の方へ持ち上げる。

重くて太ったネズミを見てにやっと笑みを浮かべ、そのまま頭からかぶりついた。

バリバリビチャビチャと音が静かに響く。

数本歯に挟まった骨をぺっと吐き出し、口の周りについた血を舐めた。

これで数日の空腹が少しは満たされた。




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