第一章・星夜 (3_2)
ふいに着信音が鳴った。ネットに夢中になっていた愛稀はビクッとした。デスクの隅に置いてあったスマートフォンの画面を確認する。恋人の凜からの電話であった。彼の方から電話をよこすなんて珍しいなと思いながら、愛稀は電話をとった。
「もしもし、凜くん?」
『ああ、愛稀。今家か?』
電話口から、凜の声がする。
「そうだけど、どうしたの?」
『実は、今日の実験が以外に早く終わったんだ。今から会えないかなと思ってさ』
「今から――?」
時計に目をやると、6時を少し回っている。意外に遅い時間になっていたことに驚いた。彼女は調べるうちに、自閉症児の子育てをつづったブログを発見し、その母親の子供を想う気持ちに自分の気持ちを重ねながら、つい夢中になって読んでいた。それで、つい時間の観念を忘れてしまったらしい。
「うん、いいよ」
愛稀は応えた。昼に遙とあのような会話をしたところなので、少し気まずい気持ちもあったが、彼の方から会いたいと言ってきてくれたのは、純粋に嬉しかった。
『じゃあ、今からそっちに向かうから。着く少し前にまた連絡する』
「分かった」
電話を切って、愛稀はデスクに頬杖をつきぼんやりとした。「別れるってのもアリかも――」という、昼間の遙の言葉が思い出される。考えもしなかったことだが、それが本当に自分のためになるのだろうか――。とにかく、今日彼に会ってみて判断しようと、愛稀は思った。