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第一章・星夜 (3_1)


 3



 アパートに帰ると、部屋の中はむっとした熱気がたちこもっていた。夏、しばらく留守にするとこんなものである。


「あっつーい!」


 愛稀は思わず叫んだ。部屋に入るなり伸ばした手でリモコンを取り、エアコンのスイッチを入れる。それから洗面所に行き、蛇口から水を勢いよく流して顔を洗い、タオルで顔を拭いた。汗をぬぐうと、少しはすっきりとした。それでもしばらくの間部屋は暑かったが、エアコンの冷気に室温は次第に緩和されていった。


 涼しくなってきたところで、愛稀はデスクに座り、パソコンの電源を入れた。起動したところで、インターネットを開き、検索エンジンに『発達障害』と打ちこみ検索にかけた。先ほど出逢った少年、平沢 星夜のことがやはり気にかかるのだ。


 検索結果はかなりの量だった。自分が知らなかっただけで、意外に世間的にはメジャーな用語らしい。愛稀は適当に、一番頭に表示された検索結果をクリックしてみた。表示されれば、それは発達障害についての概説がなされたページだった。愛稀は文章を目で追ってみる。


「えーっと、なになに――、『発達障害とは、先天的な要因によって、主に乳児期から幼児期にかけてその特性が顕れ始める発達遅延であり……』」


 少し説明を読み進めてはみたが、難しくてよく意味が飲みこめない。背景知識がないので、無理からぬことではあった。ふと気づけば、愛稀はぼーっと違うことを考えている自分に気がついた。あまり理解できないことに直面した時、愛稀はなぜかそこに集中できず、ぼんやりとしてしまう癖があった。集中力を保っていることがどうにもできないのだ。


 再び文章へと目を戻し、集中力を切らさないよう気をつけながら読み進めていく。詳しいところまで理解は及ばなかったが、どうやら発達障害というのは、いわゆるうつや統合失調症などの精神疾患とはまったく別物だということや、発達障害という言葉は大きな枠組みであり、その中に複数の障害が含まれているということが分かった。


 愛稀はキーボードのバックスペースキーを押して検索結果へと戻り、別のページを開いてみた。色々なページを見ていくうち、発達障害とひと口にいっても、それぞれの人の特性や程度に違いがあるということや、大人の社会においても問題になっていることも分かった。意外だったのは、発達障害をもっている人は、この社会に大勢いるらしいということだった。


(一見普通に見える人でも、実はそういう特性をもっている人はたくさんいるのかも知れないな)


 普通の人々にもそれぞれ個性がある。発達障害らしき性質をもっている人がいてもおかしくはないと思えた。


(でもあの星夜って子は、こういうのとは何か違う気がする――)


 ホームページに書かれている情報はどれも、実生活において苦手な部分があり、苦労するというような内容だった。だが、あの星夜という少年は、その範疇を大きく超えているように思えた。あの母親が言っていたように、かなり「重度な」部類に入るのかも知れない。


 だとしても――と、愛稀はさらに思う。


(きっと、あの子なりに思ったり感じたりはあるに違いない。あの子は、一体どんなことを考えているのだろう――)


 愛稀はぼんやりと考えてみた。恋愛感情ももたず、ここまで異性のことを意識するなんてと、愛稀は自分で自分を可笑しく思ってもみた。


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