(エピローグ)
「――ということがあったんだ」
事の顛末――日下 愛稀と出逢ってからこれまでに起こったことを、星夜は話し終えたところであった。
星夜のテーブルを挟んで向かいには、ひとりの中学生くらいの少女が座っている。少女はテーブルの上のカップを取り、紅茶をすすった後、
「ふぅん」
と素っ気なく応えた。
少女は名を鶴洲トモエといった。星夜が愛稀に話した「よく来てくれる友達がいる」というのは、何をかくそう彼女のことであった。
「そんなにいい人なの? その愛稀って人」
トモエは頬杖をついて訊いた。トモエは毎日のように星夜に会いに来ているが、愛稀がこの場所にいた1週間の間に、トモエと愛稀が鉢合わせすることはなかった。トモエはその間、星夜の導きによって、忘れ去られた歴史の隙間に旅立っており、しばらくこの世界に戻ってこられなかったのだ。
「もちろん、とっても素晴らしい人だよ。君も逢えば分かる」
星夜は目を輝かせて言った。トモエは唇を曲げた。彼女は少し嫉妬深い性分をもっていた。家庭内の不和やいじめられていた経験が、彼女のそんな婉曲した性格の原因になっているのかも知れない。星夜は自分だけの友達だと思っていたのに、別の人物が星夜の前に現れたということ。そしてさらに、星夜がその人物をいたく気に入っていること。これらのことが、彼女にとっては気に食わないのであった。
(私の方が星夜に相応しいってこと、いつかそいつに思い知らせてやる)
そんなことを考えながらトモエが思い浮かべたのは、見ず知らずのその女性に向かって、自分が剣を振りかざす場面であった。これまでも、彼女はこうやって、星夜のことを守ってきた。汚れを知らない星夜のため、何も知らないスピリチュアル・ワールドへの“侵入者”を、この手で追い払ってきた。その女性に対しても、同じような目に遭わせてやればいい。トモエはそう思い、密かに拳を握りしめた。
もちろん、愛稀はこの時、別世界で自分がそんなふうに思われていることなど、知る由もないのであった――。




