第四章・回想 (5_2)
ふいに、愛稀のスマートフォンが着信メロディを奏で始めた。愛稀はスマートフォンを手に取り、画面を眺める。
「あれ、お母さんからだ――」
愛稀は店の隅の人気の少ないところに移動して、電話に出た。
「……もしもし?」
すると、尖った口調の母親の声が聞こえてきた。
「愛稀ちゃん、あなたいつ帰ってくるの?」
「……あっ」
うっかりしていた。この夏休み中に、実家に帰省する予定もあるのだ。科学真理研究会のいざこざや、施設でのボランティア活動で、愛稀はそのことをすっかり忘れていた。
「まったく、うっかりさんなんだから。お父さんもお母さんも、首を長くして待ってるのよ」
母親は、呆れたように言った。
「ごめん。最近忙しくて」
「忙しい? 夏休みなのに――何かやっているの?」
母親の問いに、愛稀は自身あり気に答えた。
「うん。私、生きがい見つけたんだ。来週あたり帰れると思うから、その時にゆっくり話すね――」
それから何言か言葉を交わし、愛稀は電話を切った。帰省した時、両親にボランティアの話ができると思うと、うきうきした気分になる。それは、今まで受け身だった彼女が、初めて自分の意思で見つけた生きがいであった。
一体、お父さんとお母さんは、どんな顔で私の話を聞いてくれるだろう――愛稀はそんなふうに思った。けれど、決して嫌な顔はしないに違いない。何せ、自分を育ててくれた両親なのだ。クリーンな気持ちで、施設の利用者たちのことも受け入れられるはずだ。
愛稀はそんなことを考えながら、遙の待つテーブルへと戻っていった。




