第四章・回想 (2_1)
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科学真理研究会とのいざこざから数日後のことであった。
愛稀は凜と雷也に連れられ、とある全国チェーンの居酒屋に来ていた。
飲み物とつまみになりそうな料理をいくつか注文し、しばらくすると店員が飲み物を運んできた。その後、料理も続々と届いてくる。
「あ、美味しい」
カクテルを飲んだ愛稀は、思わず声をあげた。当初ソフトドリンクを頼むつもりだったが、雷也から「折角飲みに来てるんだから酒を頼め」と言われ、半ば適当に選んだのだった。けれど、それにしては、意外にもこれまで飲んだことがないような味わいを得ることができた。
「この程度で感動するとか、まだまだ子供だよなぁ――」
雷也がそんな彼女に笑って言った。凜も納得したように頷いている。そんなもんかな――と愛稀は思った。
「それはそうと、科学真理研究会だが、空中分解したらしいぜ」
雷也は話を切り出した。3人で居酒屋にやって来たのは、状況を確認するためでもあった。店内はいくつもの個室に分かれており、他の客を気にせず話に集中できる。この居酒屋を選んだのはそのためだった。
「思ったより早かったですね」
凜が言うと、雷也は頷いてみせる。
「さすがは石山だ、仕事が早い、ってことだろ――」
「四華はどうしたんでしょう」
「あれ以来、行方知らずだそうだ」
「信者や、あの子供たちはどうなるんでしょうね」
「さあな。アフターフォローは一切なしだ。ま、路頭に迷うわけじゃないんだし、何とか生きていけるだろうさ」
雷也は言い、徳利からお猪口へと透明な液体をつぎ、口へと運んだ。凜も未だキンキンに冷えたグラスを手に取り、ハイボールを飲む。そして一息つき、彼は再び言葉を発した。
「それにしても、今回の件で、僕にはどうしても分からないことがあるんですよ」
「何がだ?」
「あの平沢 星夜っていう少年のことです。響さんも愛稀も、あの少年に妙に惹かれているようでしたし、四華もそうでした。それがどういうわけなのかがひとつの疑問です。もうひとつは、それに対して僕は他の人が思うような感想を一切もつことができなかった、ということです」
雷也は腕組みをして、天井を見上げながらフーンと唸った。
「……それについては、俺が思うにというレベルだが、答えることはできるぜ」
「本当ですか?」
「ああ。まず、ひとつめの疑問。あれはあのガキがもつ資質というか、生まれ持った性質のせいだろうな。特別な人間には、どこか目を引かれるものだろう。オーラが溢れてるっていうか――。あのガキも、人を引きこませるような何かを持っていたってことだろう。それも、話を又聞きした程度で感じられるような強いオーラをな」
雷也の説明は、論理的ではないが、それでも納得できるような気がした。世の中、理屈など抜きにして、相手を引きこませる何かを持つ、いわゆるカリスマ性のある人間はいるものだ。
「あと、もうひとつの疑問だが――。わざとお前に意識させないように仕向けたんだろう。多分あのガキ、お前に嫉妬していたんだと思うぜ」
「嫉妬? なぜです?」
凜は素っ頓狂な声をあげた。あの少年に嫉妬されるようないわれはないと思えたのだ。雷也は可笑しそうに笑いながら愛稀に言った。




