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第一章・星夜 (2_1)


 2



 カフェを出て遙と別れ、愛稀は下宿先のアパートに向かって歩いていた。


 大きな陸橋に差しかかる。彼女は渡りながら、ふと橋の下を覗いてみた。下は河原になっていて、中心には透き通った川が流れ、両端の陸地には幾人かの人がいた。恋人どうしが並んで座っていたり、遊んでいる小さな子供とそれを見守る親がいたりと、それぞれが自由に行動していた。夏の暑い盛りに、涼しげな河原にこのように人が集まっているさまは、見ていて微笑ましい。


 その中で、愛稀はある人物にふと目がとまった。思わず足をとめ、しばらくその方を凝視してしまう。その人の行動が何となく奇妙に映ったのだ。それは、高校生くらいの背格好の男の子だったが、彼はその場で足をあげ土を踏みつける行為を、一心不乱に続けていた。周囲の人々はそんな少年にちらりと目をやっては、すぐに視線をそらし、知らんぷりを決めつけていた。


(何をしているんだろう――)


 愛稀は思った。愛稀は陸橋を渡り終えると、川沿いに歩き河原へ続く階段を下った。好奇心の赴くままに、少年の方へと近づいてみる。


 近づいてみて分かった。彼が踏んでいるのは、土ではなかった。彼はその場を渡っている蟻の行列、それをただ、一心不乱に踏み潰しているのだ。


「ダメだよ……!」


 愛稀は思わず叫んでいた。そして、少年の方へと駆け寄り、肩をゆする。


「アリさんがかわいそうじゃない――」


 すると、少年はぱっとその行為をやめた。愛稀の方を振り返ろうともせず、無表情のまま潰れた蟻の残骸を見つめている。愛稀は少年の一連の行為に違和感を覚えた。


「ちょっと――」


 声がした。ふとその方を見ると、少し離れたところから中年女性がこちらへと駆け寄ってくるのが見えた。


「ダメじゃないの、こんなことしちゃ」


 女性は少年を諭すような口調で言う。それから愛稀の方を見て、

「ごめんなさいね」

 と謝り、少年を連れて立ち去ろうとした。


「あ、あの……!」


 愛稀はその背中を呼び止めた。女性は怪訝そうな顔で愛稀を振り向いた。


「その子、一体どうして――」


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