第三章・深淵 (3_1)
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ふたりは科学真理研究会のアジトの入り口に立っていた。
アジトはオフィス街にぽつりとたたずむこぢんまりとしたビルにあったが、何やら異様な空気に包まれていた。
「この建物全部、科学真理研究会のものとなると大したものですね。資金はどこから出ているのだろう」
凜は素朴な疑問を口にした。雷也はあっさりと答える。
「信者から金を巻き上げてるんだろ。それかバックに出資してくれる誰かがいるとか」
「出資、ですか」
「ま、その場合、ロクな筋のもんじゃないだろうがな」
雷也は少しだけ語気を強めた。どんな奴にどんな出方をされても、常に対処できるようにしておけという気持ちがあった。
ふたりはビルの中へと足を進めた。玄関口でまず出迎えたのは、黒い服に身を包んだ恰幅のいい男だった。
「……何か御用でしょうか?」
男は体つきに似合わない細々とした声で言った。凜は彼の顔をまじまじと眺めた。目はとろんとしていて、力がないように見える。その間に雷也が応えた。
「俺たち、ちょっとこの教団に興味があってさ。見学させてもらえないかなと思って」
相も変わらずずけずけとした口調の雷也に対し、男はやはり覇気のない様子で応えた。
「……アポイントはとられてますか?」
「悪いが、とってないんだわ」
「……少しお待ちください」
男は言って、奥の部屋へと引き返していった。間を置いて、ぼそぼそと話し声が聞こえた。ひとりの声しかしないところを見ると、インターホンか何かで、別階の人間と喋っているらしい。しばらくして、再び男が出てきた。
「ちょっとお待ちください」
男は表情に乏しい顔で言って、そのまま奥へと引き返していった。
玄関口で待っているとやがて別の男が現れた。先ほどの男と比べれば、体つきはやや華奢である。
「お待たせしました。当研究会の白馬と申します。私が案内させていただきますので」
白馬と名乗る男は、ふたりに向かって胡散臭そうな笑みを向けた。
――
白馬に連れられ、アジトの中を歩いてゆく。廊下は薄暗く、心なしか陰気なイメージがした。
「この辺りが、信者たちが修行する道場の区画になります」
凜は部屋の入り口から中を覗きこんだ。黒い衣服に身を包んだ何十人もの人々が、その場に座りながら、両手を胸のところでクロスしてその場にひれ伏している。凜はそのような光景を以前見たことがあった。愛稀がコスモライフ教に入信していた当時、「お祈り」と称して行っていた動作である。やはりここがコスモライフ教の後釜であることは間違いないようだ、と凜は思った。
「そういえば、ここでは障害をもつ子供の支援も行っているとか?」
凜はふと訊いた。白馬がこちらを振り返る。
「……どこでそれを?」
「ま、風の噂ですよ」
凜はうやむやに答えた。白馬はその場で立ち止まった。凜と雷也もそれにならう。
「支援と言えるほどではありませんが、似たようなことは確かにやっていますよ。そちらも見学されますか」
「ぜひ」
と凜は言った。白馬は「こちらへ」と手で示し、再び歩き始めた。もちろん、凜と雷也もそれにならった。




