第三章・深淵 (1_2)
鳥須 凜と日下 愛稀の出逢い、それは昨年の10月にさかのぼる。
当時、石山のもとでSDR配列の機能解析の研究を行っていた凜は、配列保有者である愛稀を紹介される。彼女は研究の被験者として、石山が雇い入れたのだった。石山は愛稀に薬を渡し、愛稀は石山の言葉に従ってそれを飲んだ。凜はその薬が何なのか、知らされることはなかったが、愛稀はそれ以降、その薬を飲み続けることになる。
そこから、数ヶ月にわたり研究が始まった。愛稀の血液を採り、細胞を解析し、脳機能を調べるべくCTスキャンやMRIも行った。データはどんどん増えていったが、日が進むにつれ、愛稀の様子は目に見えておかしくなっていった。精神的に落ち込んでいくのが分かるようで、凜は少し心配になったが、愛稀は空元気を通した。しかし、ついに約束の日にも研究室に来なくなり、凜がアパートに彼女の様子を見に行くと、彼女は不思議な力で凜を吹き飛ばし、部屋を飛び出していった。
凜は愛稀の友人である間宮 遙とともに、彼女の行方を捜し始める。その際、遙から彼女たちが入信している“コスモライフ教”という宗教団体の話を聞かされる。実は、石山と雷也の研究室のボスであった二葉 繁は、その団体の幹部として実権を握っていた。教団の信仰するもの、それは科学の真理であり、スピリチュアル・ワールドと呼ばれる仮想空間が、その真理が存在する場所として崇められていた。SDR配列保有者は、その世界と関わることができ、訓練やその能力の大きさ次第では、この現実世界にも不思議な力が発揮できると考えられていた。よって、その配列保持者である愛稀は、教団の教えをより強固なものにし、勢力を拡大するための鍵として注目されていたのだ。
はじめ、愛稀の能力は眠った状態にあり、石山が彼女に渡した薬には、彼女の潜在能力を呼び覚ますための物質が含まれていた。しかし、それによって急激に能力を引き出されたことが、愛稀の精神を急激にすり減らす原因となった。何とか、愛稀を救いだした凜。それと同時に、彼自身もSDR配列保有者であると知ることになる。
一方で、教団内では、自身の研究の資金調達のために教団を運営しようとする石山と、教団を拡大して自身の名声を高めようとする二葉が対立していた。二葉は石山の能力を妬み、教団で一番の実力者になりたいと願っていた。その邪な心は、スピリチュアル・ワールドに魔物を生み出し、それはやがて大勢の信者を巻き込み、果ては世界をも揺さぶる事態につながりつつあった。凜と愛稀は、その事態から世界を救うべく、スピリチュアル・ワールドで戦いを繰り広げた。激戦の末、魔物を倒した凜と愛稀。しかし、巻き込まれた信者たちは、精神の一部または大部分を奪われた状態になり、また魔物に魂を売り渡した二葉も廃人となってしまう。そして、それらの事態に責任を感じた石山は、教団を解散するとともに、K大教授の職も退いたのであった。
そして、凜と愛稀が付き合い出したのは、その直後のことであった――。




