第二章・妄信 (7)
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道なき道を愛稀は歩いていた。自分がスピリチュアル・ワールドに足を踏み入れていることは分かった。だがこの場所は、愛稀がこれまで入り込んだことのないような、密な波動が感じられた。
意識をこちらの世界に飛ばしてから、声は聞こえなくなった。ただ、大きな情念が遠くに感じられる。愛稀はその方に向かっていた。ここが一体どういう場所なのかも分からず、行く先に何が待ち構えているのか知る由もないが、とにかく歩いてみるしかない。
やがて、目の前に水でできた巨大なカーテンが見えた。水は透明でありながら、向こうの景色が見えないくらいに濁っている。
「カーテンを開けてください」
ふいに吹いてきた風は愛稀にそう囁いているようだった。愛稀はそれに従い、カーテンに手をかけ、腕を勢いよく振り払った。水のカーテンは一瞬にして弾け、四方を大量の水飛沫が飛び散った。無数の滴が地面に落ち、共鳴し合うようにビシャビシャと激しい音を立て続けた。それなのに、不思議なことに愛稀の身体はどこも濡れていないのだった。
カーテンを取り払うと、一気に視界は開けた。視界の向こうに、大きなテーブルがあり、ひとりの少年が席についていた。愛稀はその背格好に見覚えがある気がした。まさかと思い、ゆっくりと少年の方に近づいてゆく。そして、予感は確信に変わった。
そこにいた少年は、愛稀が先ほども会っていた、平沢 星夜であった。
「日下 愛稀さんですね。待っていましたよ」
星夜はにこやかに言った。愛稀は唖然として、その場に立ち尽くした。
「……あ、あなた、どうして喋れるの?」
愛稀はつまり気味に声を出した。
「驚かせてしまいましたか……?」
少年は笑って立ち上がり、愛稀の方へと歩いてきた。そして、手を差し伸べてくる。
「改めましてこんにちは。平沢 星夜といいます」
愛稀も無意識のうちに星夜の手を握っていた。
「詳しい話はテーブルの方で」
未だ呆気にとられたままの愛稀を、彼はテーブルへと誘導したのだった。




