第二章・妄信 (4_2)
四華の説明は、確かに一理あった。愛稀自身、眠っていたその潜在能力を呼び起こされた際、精神的にかなり不安定な状態に陥ったことがあった。スピリチュアル・ワールドへ自己の精神を投影することを、愛稀たちは慣用的に“ダイブ”と呼んでいるが、過度なダイブはその人の精神状態にかなりのダメージを与えるらしい。おまけに、それが生まれながらにとなると、脳機能自体に影響を及ぼすということも、十分あり得ることであった。
「我々はその説にのっとり、そういった子供たちを集めて、能力者がいるかどうか調べてみることにしました。しかし、調査の結果、殆どが期待外れでした。ただひとり、大いなる可能性を秘めた子供を除いては――」
「その子供が、星夜くん――?」
愛稀の言葉に、四華は大きく頷いてみせた。
「ひと目見て、その子は何かが違うと感じました。他の子たちにはない、人を惹きつける何かがある。期待できるかも知れないと思っていたら、案の定この子は、あなたを連れてきました。同じく大いなる能力者であるあなたをね――」
四華の顔が不気味な笑みを浮かべた。愛稀はびくりとして思わず後ずさりそうになったが、すぐ後ろのソファに足を止められた。
「ここで会ったのも何かの縁でしょう。いえ、その少年が我々を引き合わせてくれたのです。どうでしょう、あなたも我々の協力者になってもらえませんか?」
「嫌だよ……」
「しかし、私はもう、あなたに我々の計画を手伝ってもらうつもりですよ」
「嫌だって言ってるでしょ!?」
愛稀は星夜の腕を掴み、彼を立たせた。すぐにでもここから出ていくつもりだった。
すると、外からどたどたという音が聞こえ、扉が開いた。幾人もの人間が入ってきたが、いずれも黒いスウェットに身を包み、顔にお面をかぶっていた。ぱっと見、男か女かの区別もつかないが、どうやらここの信者たちなのは間違いないようだ。
「手荒なことはしたくありませんでしたが、仕方ありませんね。力づくでもここに留まっていただきます」
信者たちがこちらに迫ってくる。じきに幾人かの信者たちが、愛稀と星夜を取り押さえた。愛稀は振りほどこうとじたばたしたが、多勢に無勢、どうにもできない。
「やめて、放してよ!」
愛稀が叫ぶと、信者のひとりが耳元で言った。
「痛い目に遭いたくなければおとなしくするんだ」
その途端、これまで殆ど何も喋らなかった星夜が、「ぎゃああああああ!」とけたたましい叫び声をあげた。それほどまでに星夜が怖がっていると思うと、愛稀は信者たちに対し激しい怒りが湧き上がってきた。頭の中がふっと一瞬、現実世界から抜け出たように真っ白になり、意識が再び戻ってきた時、彼女の身体は別世界のエネルギーで満たされていた。
「放せっつってるでしょ!!」
刹那、愛稀の身体から爆風が飛んだ。愛稀たちを取り囲む信者たちは、ことごとく吹き飛ばされてゆく。身体が自由になったところで、愛稀は星夜の腕を再び掴んだ。どうして星夜は吹き飛ばされなかったのか、そんなことを考える余裕などもなかった。扉のところまで走ろうと思ったが、新たに信者たちが入ってきた。扉からの脱出はできそうにない。どうしようかと考えて、ふと目に入ったのはすぐ左を阻む壁だった。分厚い木の板に仕切られてはいるが、その向こうは部屋の外につながっている。
「やああああああ!」
愛稀は叫び、拳で壁を勢いよく叩いた。ドゴオォォォン! という爆音とともに、壁は粉々に吹っ飛び、愛稀の前に巨大な穴が開いた。愛稀と星夜は穴から外へと抜け出し、廊下を駆けてゆく。
「追いなさい!」
四華は信者たちに命じた。信者たちが命令通りに走ってゆく中で、四華は険しい表情をふっと緩めた。
「素晴らしい。ここまでできるようになっているとは――」




