第二章・妄信 (4_1)
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コスモライフ教は、愛稀が以前入信していた新興宗教団体である。入信当時、愛稀はその教えに誰よりも心酔していたが、それが妄信であったと気づいたのは数ヶ月前のことであった。教団内には実は信者たちが知らぬ大きな陰謀が隠されていた。しかし、その陰謀は打ち崩され、その後教団は崩壊の道をたどることになったのだった。
四華 良哉は、その中のユースグループという、青少年信者の団体を取りまとめるリーダーであった。統率力に優れていた上に、端麗な容姿も手伝って、特に女性信者たちからは絶大な人気を誇っていた。しかし、今となって分かることだが、彼は目的のためなら手段を選ばず、どんな犠牲も厭わないという過激な面を持ち合わせていた。とても危険な人物なのだ。
「なぜ四華さんがここに――?」
呆気にとられたふうで愛稀は訊いたが、すでに察しはついていた。彼がこの科学真理研究会のリーダーを務めているということは、導き出せる答えはひとつしかない。先ほどの白馬の意味不明な発言も、そういう意味で考えれば納得できた。彼女はすっと顎を引き、厳しい表情を作った。
「また人々をたぶらかす気?」
「人聞きの悪い言い方はよしてくださいよ」
険のある表現をした愛稀に対し、四華は棘のない口調で返した。
「それに、折角再会できたんだ。もっと喜び合いませんか?」
「喜べるわけないでしょ――」
愛稀は警戒心を緩めない。対して四華は、悠長に構えたままだ。
「――あなたは私に何やら誤解をしているようだ。コスモライフ教が信者の信仰心を逆手に取り、彼らを裏切ったことは事実です。しかしそれは、事実上実権を握っていた老害どもが、自らの私利私欲のために動いたためでした。私は、純粋に信者たちを正しい方向へ導きたいと考えていたのですよ」
愛稀は四華の言う“老害ども”というのが、誰のことなのかすぐに分かった。そのうちのひとりは石山であった。けれども、彼女にとってみれば、四華もその者たちと大差はないのだ。
「それをここでやろうというわけ?」
「そうです。たくさんの人々に真理を知ってもらい、正しい方向に導く。そして教えを世界中に広める。そのためには、偉大な実力をもつ者がトップに立つべきなのです。そしてそれは、他の誰でもなくこの私でしかできないことなのです」
自分がその偉大な者だと言ってはばからない四華を、愛稀は訝しげな眼差しで見つめた。
「今度は何を企んでいるの。あのような子供たちをあんなところに押し込めて、一体どうするつもり」
「あんな子供たちに興味はありません。私に興味があるのは、その子です」
四華は人さし指をある方向へと向けた。その先にあるのは、何と星夜であった。
「星夜くん……!?」
「そうです。その少年こそ、私が探し求めていた者なのです」
「……どういうことなの?」
愛稀は尋ねた。四華は手を後ろで組み、手持ちぶさたに周辺をぶらぶらと歩いてみせる。
「知っての通り、我々はスピリチュアル・ワールドを宇宙の絶対的な真理の場所として崇めてきました。そして、長年に渡って、その世界にリンクすることができるものを捜し、何とかその世界にアプローチする術はないものかと試みてきたのです。日下さん、あなたにも覚えがあるでしょう」
確かに、彼女が石山に研究の被験者に選ばれた時、実はそこにはコスモライフ教という大きなバックが存在していた。
「近年、研究者たちはある重要な発見をしました。世間で言う知的・発達系の障害をもつ方々に、スピリチュアル・ワールドにアプローチする力の大きい者がたくさんいるらしい、というデータが出たのです」
「それってどうして……?」
「さあ。私は医学研究に身を置く人間ではないので分かりませんが。しかし、少なくともこういう仮説は立てられるでしょう。スピリチュアル・ワールドへのリンクは、脳神経を通じて行われます。意識をあちらへと飛ばすことで、あの世界を見ることができるのです。その力が生まれつきあまりに強いとなると、その人の精神や脳機能に大きな影響を与えるというのは、想像に難くありません」




