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第十六話 女嫌いのアルマ

遅くなった。

書いてて気づいたが、メシ食うシーンばっかりだな。

第十六話 女嫌いのアルマ



 アルマが殺意を察知したのは車を取りにダンス教室近くの駐車場へ向かった時のことだ。

 ハイソサエティに属する人々の多い地区だが、大通りの一本裏手は駐車場や小さな商店が軒を連ねている。

 そんな雑然とした小さな通りであった。

 振り向いた瞬間、ごく小さなプラズマ兵器独特の焦げるような銃声。

 反射的に内功を練り上げ、木刀に念を込めてそのプラズマを吸着させ地面に逸らした。

 足元のアスファルトはプラズマ弾により煙を上げて液化していた。

 鉛玉のローテク銃なら死んでいたかもしれない。

「クゥアアアアッ」

 自身でも驚くほど頭は冷静なのに野獣のような叫声を上げていた。勝手に体が襲撃者へ躍りかかろうとするが、すんでの所でそれを止めることができた。

 これが陽動なら袁姫昌が危ない。

 感情のままに動くことを由としないのが男というもの。ただし例外あり。

 教えてくれたのは蘇土だ。人はいつでも矛盾している。

 銃声に対しては誰かがすでに通報した後のようだった。ダンス教室へ戻れば、肝心の姫昌はおろおろしている。

「姫昌様、少しトラブルです。今、代わりの者に連絡を取りますので」

 袁姫昌は泣きそうな顔だ。

「あの、ローズウッドさん」

「はい」

「大丈夫、なんですか」

「はい」

 視線を感じる。

 ぐるりと気配を辿る。悪意を感じた。

 目だけでそれを見やれば、姫昌と同じ私塾に通うという少女の姿を確認できる。

 どうしたらいいのだろう。詰め寄って、関係があるか問い詰めるか。いや、このダンス教室に通っているならばセレブリティだ。ここで問題を起こすのは不味い。

 女は嫌いだ。


◆◆◆


 アルマと蘇土が合流するころには、警察の現場検証もあらかた終わっていた。

 袁姫昌は警察官が家まで送るということになり、蘇土とアルマは現場検証に付き合っていた。

 地区の担当はソーサラーズである。顔見知りの刑事が来ると予想していたが、やって来たのは営業一課の櫛田サクヤである。

 褐色の肌を持ち、長い耳を持つダークエルフ種の女性だ。

 見た目には気の強そうな二十代後半だが、実際には二百歳以上らしい。

「蘇土くん、こないだはソーサラーズジャケットで無様晒してくれてありがとうね」

「最初から嫌味かよ」

「トラブル続きなのよ。本社から派遣警部まで出てくるし、もう最悪。だから、あなたたちにも仕事を出すわ」

 だいたいにおいて、嫌味から始まるお願い事は厄介事でしかない。

「拒否権は?」

「別にいいけど後味は悪くなるわよ。あんたんとこのガキがルール破りしましたってことになるから」

 サクヤはちらりとアルマを見やった。

 アルマもまた、憮然とした表情を隠さない。最初から、この女、櫛田サクヤはアルマを無視して蘇土としか向き合っていない。

「こいつは法に則っただろ」

「この街じゃあね、『銃を持ってるヤツは半殺し、撃ったヤツはぶっ殺せ』がルールでしょ。SF系がいたら大惨事なんだからさ」

 過去に超超越科学技術世界線の落下者である対暗黒星人用決戦兵器『歯車戦者』は、落下時にレーザー銃で威嚇されたことから大規模な反撃を行った。それは死者二千名以上の大災害へ発展している。

 このようなことからサクヤの語った認識がこの街にはある。

「護衛の仕事放り出す訳にもいかんだろ」

「言い訳なんてらしくないわよ」

 蘇土は煙草を取り出したが、またしてもライターが見つからない。仕方なくポケットに戻そうとするのをサクヤが止めた。そして、断りもなく一本抜き取る。

「あなたは禁煙中?」

 ガスライターで火を点けたサクヤは、蘇土の顔に向けて煙を吐きだした。

「まあいいや、どうしたいんだ?」

「生かしてソーサラーズまで引っ張ってきて。銃をばら撒いてるヤツがいるみたいなのよ」

「……オーケイ、善処する。脳だけでもいいか?」

「最悪はそれでもいいわ。明日か明後日までにお願い。早ければ早いほどよくて、お礼も同じだけ」

「分かったよ。そっちの協力も欲しいが」

「必要なことがあったら連絡して、担当は私だけよ」

「オーケイ、サクヤちゃん」

 蘇土のちゃん付けに対して鼻で笑ったサクヤは「じゃあね」と言って煙草をくゆらせたまま、路駐してある回転灯付きのグリフォンに跨り空に消えていく。

 夏場の空は気持ちよさそうだな、と妙なことを思った。

「蘇土さん、ストーカーもそうですけど気になることが」

 アルマは姫昌の護衛の際に感じる悪意を説明した。

 私塾に通う少女と姫昌は何やら因縁があるようだが、そこに銃撃の男が関与しているかは不明だ。

「アルマ、撃たれた時のことだが、本気で殺しに来てたか?」

「はい。脅しではあんな殺気はでません」

「簡単な仕事のはずだったってのになァ。姫昌お嬢様に協力してもらえたら早いとこ済ませられるかもしれねえ。危険だが、やるか?」

「もちろん」

「親父さんには俺が話すから、アルマは姫昌お嬢様を口説いてくれ」

「言い方がいやらしいですよ」

「とりあえず、そこの喫茶店で作戦ってほどでもないが説明するよ」

 アルマはため息を吐いた。

 蘇土が現場検証の時かちらちらと喫茶店の立看板を見ているのには気づいていた。自家製キッシュあります、と黒板にチョークで手書きされている。

 キッシュというのはタルトとピザを組合わせたようなパイ生地を使った料理だ。

 セレブリティの多い地区にしてはこじんまりとした店である。雑居ビルの一階をテナントとしていて、店先には持ち帰り用のカウンターがあって作り置きのパンが並べられている。

「店内で食べれるかい?」

 蘇土が問えば、レジにいた角付き人間種の女性が「大丈夫ですよ」と入店を促してくれた。

 テーブル席についてから、蘇土はキッシュを四種類とブラッバーを、アルマはメロンパンとカレーパンにミルクを頼んだ。

「間食はしない主義じゃなかったのか」

「トレーニングに付き合ってますし、最近はお腹が減るんです」

 アルマはどこか不機嫌そうに言う。普段食べないものを食べたくなるのはストレスや体質の変化らしい。

「そうか、これ前から食ってみたかったんだか結構美味いな」

「そんなことより、どうするつもりですか」

「ああ、サクヤちゃんの言い方で分かるだろ。生かして捕まえるんだ」

「その方法です」

「そうだな、お前とお嬢様が適当にイチャついて、相手が我慢できなくなって飛び出してきたとこを捕まえる」

 囮捜査だが、ひどく乱暴な作戦だ。

「荒っぽいですね」

「一週間あったら相手を捜せるんだが、明日までにってならこれしかない」

「銃を持ってる相手に囮になれ、と」

「サクヤちゃんは銃を撒いてるヤツの情報が欲しいんだろ。一番面倒でつまらねえ仕事さ」

「姫昌お嬢様が危ないでしょう」

「なあに、作戦はある」

 三秒で考えた作戦だから無茶だけどな、と続けたいのを蘇土は我慢する。

「本当ですか?」

「あー、その、穴だらけだが多分なんとかなるぜ。アルマの知り合いで銃より早く動けるヤツっていないか?」

「そんなのいるわけ、……いますね」

「バイト代弾むから連れてきてくれ」

「了解」

 アルマは意地の悪いことを思いついた。

 いつも無茶ぶりをする蘇土に、同じく無茶ぶりで返してやろうと思うのだ。

 カレーパンは美味しいがメロンパンの味は今一つだった。キッシュもいい匂いで、ここでは甘いパンは余計なのだな、とも思った。



◆◆◆


 袁姫昌は太りやすい体質の自分が嫌いだ。

 シンティナ大陸の商業連合本部から出向することになった父と共にやって来たフォーシエット市も嫌いだ。

 この街の上流階級層は下品だ。

 落下者は別にいいけれど、治安が悪いのも嫌い。

「姫昌様はそちらで待機して頂いて、後のことは私たちが行いますので、お願いできませんか」

 目の前の美形の少年、アルマート・ローズウッドはこちらに何の興味もない。

 人の顔色を窺って生きてきた姫昌にはそれがよく分かった。

 銃で襲われたというのに、彼はその相手を叩き潰すことだけを考えている。少し、怖い。

 警察官に警護されて帰り着いた自室、一番安心できる空間なのに、彼は安心とはほど遠い話をする。

「……はい、大丈夫です」

「そうですか、それはよかった。あと一つお伺いしたいのですけど」

「なんでしょうか」

「あのストーカーですけど、私塾の方と何か関係がおありでは?」

 びくりと心臓がはねる。

 広い私室には机とテーブルがあるだけで、何も飾っていない。無機質なそこに相応しい会話になった。

「……、何も」

「本当のこと、仰って下さい。命にかかわります」

 アルマの言葉には身を案じるという色は無い。あるのは、仕事に対する真摯な姿勢だけだ。

 しばしの沈黙の後に口を開いたのはアルマだった。

「失礼を承知で申し上げますが、私塾のご学友の方は姫昌様に悪意を抱いています。軽いというものではないでしょう」

「……」

「女の世界というやつですか?」

「……」

 アルマの顔色は変わらない。つとめて無表情だ。

「僕は特異遺伝子保持人間種です。環境型性決定人間種といって、十六歳前後まで男性と女性へ肉体が変異を繰り返すんです。今の僕は男ですけど、一昨年までは女の子でしたよ」

 こういう時に煙草があったらキマるんだろうな、とアルマは思った。蘇土が吸っているのも、こういう時に格好良くするためだろう。

「だから、女の世界のことも分かります。イジメを受けていますね。お立場や家柄で直接的な暴力には晒されておられないでしょうけど、あの男に愛の告白でも強要されましたか?」

「わ、わたしは」

「僕はあなたの事情に興味はありません。警備稼業者というのは依頼者の事情を理解せねばなりません。何が敵でどうやって対処するか、そのために正確な状況の理解が必要なのです」

 ぐ、と姫昌は何か出かかっていた言葉を押しとどめた。

 不思議と、姫昌にはそれで楽になる部分があった。何の感情も無いというなら、恥も何も晒すのにためらいは無い。

「わたしは、イジメられてます。あの男のことは直接知りませんけど、勝手にあの方たちが恋人を見繕うと言って」

「そうですか。それを行った方のお名前などをお願いします。相手のお家のこともありますし、丸く収めるために必要ですので」

「はい」

 吐きだした姫昌はほんの少しだけ胸が軽くなった。

 けれど、一人ぼっちなのは変わらない。

 シンティナ大陸に帰りたいと思った。

 この街には馴染めない。



◆◆◆


 蘇土が姫昌の父を説得するのに時間はさしてかからなかった。

 姫昌の通う私塾の同輩ともなれば相当のセレブリティだ。娘の不祥事を握れるというのは彼の仕事の面でもアトバンテージになり得る。

 人員と道具だが、引退をしたダンドラ・ウリエルに対しては借りがあるよなあと強要してバックアップを確保。サクヤには無理を言って東洋魔術スクロールの変幻自在符を正規使用品として裁判所に通したものを用意させた。

 あとは念には念を入れる、という話である。



 藤野美耶子と待ち合わせたのは行政区にほど近い不動産屋の前である。

 本日は快晴で、夜空には星が輝いていて、蒸し暑い。フォーシエットは九月まで異様に暑く、十月になると途端に涼しくなる。

 蘇土が不動産屋の前に着くと、店内から美耶子が店員に見送られて出てくるのは同時だった。いやに親密な感じで男前で遊んでそうな店員は蘇土を一瞥して店に戻っていく。

「こんばんは、蘇土さん。こんなとこまで来てもらって、大変だったでしょう」

「ああ、大丈夫ですよ。アルマのヤツが藤野さんに無理言ったみたいで」

「いいえ、渡りに船でしたから。蘇土さん、お夕食は?」

「いや、まだですが」

「アルマくんが麻衣の面倒をみてくれるって言ってたんで、ご一緒しません? すぐ近くに美味しいお店があるんです」

「あ、じゃあ、喜んで」

 美耶子はいやに上機嫌で、彼女に引きずられるように蘇土は少し歩いた場所にある寿司屋に向かうこととなった。

 寿司、は幾多の世界線で同一のものが見られる料理だ。文明の進んだ世界では高級品で、それ以外では海辺のファーストフードという扱いなのが面白い。

 ミハル寿司とのれんのかかった小さな渋い店だった。

 廻っていない寿司屋のカウンター席で、とりあえずは握りの松を頼む。

 店内のいやに旧式の壁掛け液晶テレビでは、帰還派活動家の清柳院絹江のフォーシエットでの講演のニュースが流れている。この女性と美耶子は姉妹くらいに似ていた。

「アルマくんから聞いてますけど、バイトのお話でしたよね」

「ええ、相手が銃を持ってるんですけど」

「素人でしょう。大丈夫ですよ、手加減もできますから」

 いやにはっきりと言う。

 美耶子の腰にはこの街ではお馴染みの警棒が下げられていた。小太刀と同じくらいの長さで、とりたてて変わった機能を持つものではない。

「そのう、人をやったことは」

「お食事前にする話じゃないですけど、ありますよ。麻衣が産まれた時に、シンティナでテロがあったでしょう?」

「ああ、いまテレビで流れてるあの人の子供をなくしたってアレでしょう」

 十年ほど前の商業連合本部へのテロ事件だ。

 帰還派と呼ばれる元世界線への帰還を目的に、商業連合に対して情報開示を求めるテロ組織『槍鬼軍』の仕掛けた武力テロだ。市街地でRPGを乱射したあげくにビルに対してワイバーンをけしかけた事件である。

 蘇土はこの時、南洋のエルフ自治区とヤミ国との紛争に参加していたため、この事件で稼げなかった。当時を知る傭兵曰く、首一つで三百万という大盤振る舞いだったらしい。

「巻き込まれちゃって、その時に抵抗はなくなりました。ふふ、剣の道で、なんていうか花が咲いたようになったのはあの時でしたね」

 物騒な話だが、武術とか剣術ではよくある話だ。

 けれど、寿司屋でする話ではない気がする。

 握りの松がやって来て、しばし舌鼓を打つ。実際に舌鼓を打つくらいに美味い寿司だ。寿司屋の大将は両手がサイバーウエアなのに、いやに繊細なものを作る。人工神経技術があればこそという話だ。

「美味しいでしょう、ここ」

「ええ、特に青物がいいな」

 青物、というのはイワシやサバのことでヒカリ物とも呼ばれる。足が速いため新鮮かつ生臭みを消す工夫の必要な魚だ。

 握りが半分ほどなくなった所で赤だしがやって来る。関西風だ。関東では魚の入る味噌汁が出て、関西では例外なく赤だしである。

 食べ終えると茶碗蒸しが出る。ユリ根がいやに甘くて美味い。季節が合えば銀杏も入るのだろうが、夏の今は入っていない。

「美味しかったですね、追加で何かたべますか」

「それじゃあ、ガッチョの唐揚げとチヌのあら煮。藤野さんは?」

「カニ味噌豆腐とモロキュウ、それから清酒を適当に」

 おや、酒をやるのか。

「蘇土さん、お酒は?」

「いや、後でよるとこがあるんで、今は遠慮しときます」

「そんなこと言わないで、やって下さいよ。一人で呑むのは寂しいんで」

 いつもと違うテンションだ。美耶子の様子はいやに上向いている。

「じゃあ、シンガポールスリングを」

 寿司屋なのにカクテルのオーダーは普通に通った。ねじり鉢巻きをしたサイボーグは慣れた手つきで酒を作る。

「洒落てるのね」

「こないだ高野さん、センターの職員なんですけど、そいつと飲みに行った時に教わったんですよ。甘くて、カクテルは思ったより美味しいもんでした」

 酒の味はいまひとつ分からない。カクテルはジュースみたいで飲みやすい。お子様か。

 テレビからは清柳院絹江の言葉が流れていた。

『我々は帰還のための努力をするべきです。私は十年も前に子供をなくして気づきました。テロは悲しいことです。恨んだこともあります。けれど、落下者は故郷に残しているんです。私は子供をなくしたことでそれに気づいたんです』

 故郷への帰還。落下者にはそれが悲願である者とそうでない者がいる。ユーリスはどちらだろうか、と蘇土は不意に思った。

「私、この人嫌いなんです」

 テレビを見ていた美耶子は画面を見つめたままぽつりと漏らした。

 店員が酒を運んできて、二人で乾杯する。コップ酒に口をつけた美耶子は、一口で半分も飲んでしまった。

「この人と顔が似てるでしょう、間違われることがあってウザいし、言ってることも嘘くさくて大嫌いなんです」

「へえ、まあ賛否両論ですよね」

「聖人君子みたいな顔して綺麗事言ってるのが嫌い。子供がいなくなって落下者の支援してるっておかしい。だって、子供取ったヤツに復讐するのが普通なのに、ほんとにこいつ見ててイライラする」

 一口で酔ったという訳ではないのだろう。顔は上気していたけれど、それは怒りとかそういうもののせいだ。よほど嫌いらしい。

 しばらく、美耶子の口からは清柳院絹江への罵詈雑言が続いた。

「ははは、まあそう言わず飲みましょう」

「これおかわり」

「あ、俺はマルガリータ頼む」

 ちょっとした食事が、いやに長くなった。

 酔っぱらった美耶子を部屋に送るころには夜も更けていて、この後の用事を思い出してげんなりとした。

 藤野家ではアルマと麻衣が待ち構えていて、母親を酔わせるとは何事かとガキ二人に説教をされた。

 仕事だと言って彼らから逃げ出す。

 ちらりと振り返れば、美耶子が笑顔で手を振っていた。

 最近はいやに賑やかで、調子を崩しっぱなしだ。



◆◆◆


「で、私に協力しろと言うのか」

 アンジェリカは約束に二時間も遅れてやって来た蘇土に対して不機嫌丸出しで言った。

 センターの食堂はフードコーナーは閉店しているが、自販機食品は売っているしヒマな連中が集まって喋っていたりするので一日中賑やかな場所の一つである。

「かなり危険なんだが、バイト代は弾むし、私設警察への就職には推薦状も書くよ」

 蘇土を投げ飛ばしたことでローニンズとソーサラーズから話が来ているということだ。他にも機械や化学に頼らない技術では一流のアンジェリカである。たとえファンタジー系であっても大手は確保に動く。

「ふん、まあいい。姫様の誕生日もそろそろだしな、金も欲しい。あ、お前には誕生日は教えないからな」

「本人に聞くからいいよ」

「ぶっ殺すぞ」

 銃で狙われる可能性があるよ、と教えた蘇土だが、アンジェリカは、

「お前以外にも竜もどきと剣士が二人いるのだろう。なら問題ない」

 と、意に介した様子は無い。むしろ、どこか喜んでいるフシがある。

「いいのかよ、危ないぞ」

「問題ないさ。ここは平和だしな、なまってたよ」

「お前らはほんと強いよなあ」

「バケモノが変なことを言う」

 ファンタジー系のほとんど全てがこの世界は平和だと言う。

 理不尽、死、危険、やはり彼らは死生観が違うのだ。

「よかった。これでなんとか面目が立つ。あとは、アルマにどんだけ煽らせるかだな」



◆◆◆


 いつもと同じ私塾のお迎えだが、今日のアルマは様子が違う。

 普段はいかにも護衛といったジャケットだが、今日は良太郎がコーディネートした異様にキマったテーラードジャケットに和柄シャツという下品な勝負服だ。

 姫昌もまた緊張した様子でやって来て、私塾の入り口でアルマと親密な様子で談笑している。

 遠くからそれをモニターしているのはこの作戦に参加する一同で、やれ「わざとらしい」やれ「あの服カッコイイけどセンス尖りすぎ」だとか、他人事で妙なことを言い合っている。やはり、傭兵だとか警備業の人間は子供みたいな大人が多い。

 アルマと姫昌がしばらくそうしていると、いじめっ子たちもやって来た。

 モニターしていると、どうやらリーダー格が何か姫昌に文句を言いに詰め寄っている。



 目の前でぐちゃぐちゃ嫌味を言っている少女を見て、アルマはやっぱり女の子は嫌だなあと思った。

「おい、ブサイク。人の女のこと好き勝手言ってんじゃねえぞ。お前みたいに取り巻き使ってイジメてるカスみたいな女はな、男からしたら価値の無いブサイクなんだよ」

 我ながらひどいことを言うなあ、と思いながら考えていたセリフを口に出す。そして、姫昌を抱き寄せた。

「行こう。こんなアホと話してたらアホが伝染して姫昌までブサくなったら大変だ」

 自分より下と思っている相手。それより下だと宣言されたら彼女は許せないだろう。保身なんて忘れて感情で行動するはずだ。これで動かなかったら適当に締め上げて吐かせればいい。

 ストーカー男はこいつらの知り合いで、姫昌があんたに会いたいって言ってた、なんて煽り立ててストーカー行為に走らせていたという。

 銃まで持ち出したのを知ってトカゲの尻尾切りよろしく無関係としたいだろうが、これだけ言えばそんなことは忘れるだろう。

 性の決定は、自分の意思ではなく運命だとされている。が、実際には好きな相手に合わせて無意識に性別を変えているのだとか。

 女にはなりたくないなあ、とアルマは改めて思った。


短編で書いた退魔師モノの続きもまた書きたいなあ。

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