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電光石火!キス白羽取りの術

「アゴーは私が全力で傷つけない。

 お前に言われずとて、情報管理は私がする」


(もう飽きた、めんどくさい、黙らせたい)

 冷たい目をして情熱的セリフを吐いた姫から、剣呑な思考が伝わった。

「!」

 そして同時に、いつもの電光石火で、今度こそ間違いなく私にキスしようとびゅんっと身を乗り出してきた。


(困ったらキス攻撃かっ!!)


 むっとしながら精神攻撃の気合いのままに避けようとするが、精神感応下でも動ける2人とは違い、私は動けない!

(げげっ避けられない!?)

 不機嫌きわまりない顔をした姫(友人の婚約者きどり)に唇(しかもファーストキスですけど何か?)を奪われそうになり、動けずにとっさに目をつぶってしまった----!!!


(や、やばっ!!)

 かたきの前で目をつぶってしまった判断失敗に気づいた瞬間。


(((ヤメロッ!!)))

ビリビリビリビリビリビリッ!!!!

     ビクンッ!!ビクビクビクビクッ!!


 王子の手を握っていた両手を激しい電撃ショックが襲った。

 肘と肩が自分の物じゃないみたいに勝手に激しく波打って背中が海老反りになり、反動で足が宙に浮く。

「ぅがあああぁっ!」

 両手から体中に激しい電流が走る。

 生まれて初めてレベルの激痛。

 女としてとんでもない感じの悲鳴が聞こえる。


 誰だよ今の悲鳴。

 ・・・私だよ。

 いくら女捨ててるからって、無意識の悲鳴があれって女としてどうなの?


 海老反りのまま激痛をなす術無くただ味わい、走馬灯のようにムダな事を考える。


 まるで永遠のような数秒が経つと、痛みは過ぎ去った。

「いっ、いったぁ~」

 食いしばっていた目と口を開くと、生理的な反応で涙と涎がこぼれた。

 気づくと手は離れ、ショックで尻餅をついていた。

 涙目で手を見ると、火傷したように真っ赤になっていた。


「・・・ふっ、私に傷を付けるとは、やはりお前は”王子”だな」

 床にへばった私の向かい側で、同じように片手を赤くした姫が、涙どころか、ギラギラした目で仮の王子を睨み、ニヤリと笑った。

 さっきの電撃を食らったはずなのに、姫は姿勢こそ崩しているが、立っている。

「なんにせよ、自分の雌に触れられるのを体が拒んだということは、お前もやっと雄のスイッチが入ったという証拠だ。

 祝いを言うぞ・・・」

(こ、こわぁ。。。)

 祝うと口では言っているが、傷をつけられてリミッターが外れたのか、今までの脳内トーク戦とは比べ物にならない禍々しいオーラを全身から吹き出させている。


 しかし、そのギラッギラ臨戦態勢の姫をまるっと無視して、仮の王子は私の前にひざまずいて手首を取った。

「すいません!体が勝手に・・・。

 コントロールができなくてあなたにまで傷をつけてしまいました」


 さっきの電撃は、この人がやったんだ。


 登場したばかりのときは通常状態の姫にも怯えていたのに。

 そんな彼が姫より私への謝罪を優先してくれた。

 無表情なりに、猫背と目が不安を訴えている。

 手袋越しの両手から繋がる意識は、真剣に謝っているのが分かる。

 さっきまでずっと白っぽかったピアスが、夜みたいな濃い青色に沈んでいた。

 わざとじゃないと信じられた。


 涎をふきたい。

 手を動かすが、赤くなった指に力が入らない。

 白衣ポケットのハンカチが取り出せず戸惑っていると、仮王子が代わりに取ってすっと顔を拭ってくれた。

 落ち着いて怪我の程度を見る。

 真っ赤になっており、放っておくとこれから水ぶくれが酷くなりそうだが、肉が溶けて指同士がくっついたりはない。

 多分、すぐ治療すればちゃんと治るレベルだ。

 

「最初に言ってた、今アゴーに触れたら危険ですっていうのはこういうことですか?」

 地下で一時期飼育していたカクレクマノミのことを思い出す。

 クマノミは繁殖相手が定まった後、他のクマノミが近づくと激しく攻撃し排除する。

 動物の本能によくあることだ。

「そうです・・・。結局僕が怪我をさせてしまいました。すいません」

 人間社会では普通(?)刺したり殴ったりになるのだろうが、精神感応という手段がなぜか使えるこの人たちの場合はこういう事態になるのだろう。

 この人の場合、姫に無理矢理決められたとはいえ繁殖実験相手ということになっている私を、本能が勝手に姫のキスから守ろうとしたということなわけで。


 とんでもなく痛い目に遭わされたとはいえ。

 人のファーストキスをどうでもいい気分で奪おうとしたいじめっ子タイプの姫には腹が立つが、いじめられっこ的様子のこの人相手には腹は立てづらかった。

 傷が治らないレベルならまた違うが、、、元々私は痛みに強い方だ。

「・・・できればすぐ、治療させてください」

「もちろんです。治療キットを取ってきます」


 そのまま手首を取って立ち上がらせてくれた。

 が、その真後ろに立ちはだかる姫に意識を戻して、立ち止まる。

「姫、すいませんが、明日来る医療チームにも、実験対象の治療要請を出してください」

 仮の王子は、まだ多少猫背気味ながら、姫に向き合った。


「ふぅん、、、まあ、いいよ。」

 姫の禍々オーラは収まって、また顎に手をやってニヤニヤしてこっちを眺めていた。


(ていうかそもそも、姫が悪いんじゃんっ!!)

 オーラが収まった隙に、一気に口頭で責める。

「ていうか今後キスするの止めてくださいっ!

 私たち日本人に取ってはキスは重要なんです!

 それからとにかく、結婚の件についてはアゴーに直接話をさせてください!!!」


「いいぞ。今連れてくる。」

 姫は意外なほどあっさり頷いて、ぴょっとエレベータに飛び込んだ。

 

 待っている間に、お付きの者のうちひょろっとした1人が、救急キットらしきパッケージを持ってきた。

「・・・・・・・・」

 仮王子と言葉は交わさず、手渡しもせずにキットを側に置いて、無言で立ち去る。


 アゴーをお姫様抱っこした姫がすぐ戻ってきた。

「熟睡してしまった。

 話は明日にしろ。

 タクシーを呼ばせたので、家まで送ってこい」

 

(う、うわぁっ。。。み、見るからにじ、事後だよぉっ・・・///)


 小柄な姫が危なげなく抱いているアゴーは、顔を姫の肩に付けて、完全に体の力を抜いて眠っていた。

 服こそ着ているが、髪がしっとり汗に湿っていて、力なくぶら下がる二の腕が何ともしどけない。

 いつもは隠されている可憐な首もとが晒されているだけで、普段ズボンの人がミニスカートをいきなりはいていて生足剥き出し・・・みたいな類いの、独特の色気があった。

 怒りや火傷のことは忘れて、どぎまぎしてしまう。


 どうにもとんでもない性格でおかしい所ばかりの姫であるが、見た目はすごい美人ではある---------そんな相手と、アゴーが。。。

 この1、2時間の間に、いったいどんなことが起ったのか・・・。

 さっき買いに行かされたあの下着・・・普通に姫の着替えかと思っていたが、もしかして、アゴーのための・・・?

 ほんのり想像しただけで、困る。

(ううう もおお!!

 それじゃなくても混乱してるんだから、身内の不思議な情事とか知りたくないよぉお!)

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