五話
俺はエディカを連れて、顔なじみの店主がいる店に入った。
「おう、ランドルじゃねえか」
「久しぶりだな、おやっさん」
やたらガタイのいい、ドラゴンバスター上がりの店主が経営するレストラン。国境付近で海も近く、治安がよいとは言えないトウィルで比較的安全に食事ができる場所として繁盛している。
「何にするよ。店主はオッサンだが、味は保証するぜ」
適当にあいている席に陣取りメニューを指差す。その間におやっさんに殴られる。理不尽な店主だ。
「ステーキ、ハンバーグ、スパゲッティ! どれにしようか迷いますね!」
「ああ、そうだな。俺はステーキセットで」
エディカのやつ、目が輝いてるぞ。そんな食いしん坊キャラだったのか。
「そういえば、先輩のおごりなんでしたっけ?」
「ああ」
なんだ、嫌な予感がする。こいつはいったい何をするつもりなんだ。
「ここのメニューを一通り下さい!」
何を言っているんだ!? この小娘は!
「それは構わねえが、ちゃんと食い切るんだろうな?」
「はいっ!」
「いい返事だ! 嬢ちゃんいいドラゴンバスターになれるぜ」
「返事だけで何がわかるんだ! そんなに食えるわけないだろ!」
「いいや、嬢ちゃんなら食うね。よし、オーダーはメニュー全部にステーキは二つ、だな」
「はいっ!」
「なんでお前がこたえてるんだ!? 俺が払うんだぞ! ってかおやっさんは? もう厨房に行ったのか!?」
ちきしょう。俺の財布はいったいどうなっちまうんだ。
▲▽▲▽▲▽▲
二時間はたったろうか。隊のメンバーも揃い、エディカも食事を終えた。
食い切りやがった。メニューの総数は20ちょいと少なめだが、一人で食い切れる量では絶対にないはずなのだが。
「おう、ランドルよ。いい後輩を持ったな」
「冗談はよしてくれよ、おやっさん。先輩の財布を空にするやつが、いい後輩なわけがない」
「そうか、エディカの食いっぷりに免じて多少まけてやろうと思っていたんだが、それは必要ないようだな」
「ああ、僕はいい後輩を持って幸せだなーっ!」
おやっさんありがとう。正直、野垂れ死にしそうでした。
「いやあ、凄かったですね。エディカの食いっぷりは」
隊長が俺とおやっさんとの会話に入ってきた。俺もよくは知らないのだが、おやっさんはドラゴンバスター時代に隊長の上司をしていたらしい。
「ベイルか。あの子は大物になるぞ。この馬鹿に任せてたら、どうなるかわかったもんじゃあねえ。お前もちゃんと目をかけてやれよ」
「はははは。わかってますよ」
「おやっさんも隊長もひどくねえか?」
俺の言葉もむなしく、隊長とおやっさんは話を続ける。
「エディカ、不思議な子ですよ。グレイスを手なずけたり、あの食欲だったり」
「ほう、グレイスをね」
そこまで言ったとき、店の門が勢いよく開け放たれた。
「パパ、あたしに会わせたい新人の子、って誰かしら?」
その声は俺の一番会いたくない声。おやっさんの娘、ミストだった。
「あら、ランドルもいるじゃない!」
見つかっちまった。