三話
ドリーはエディカの連れてきたドラゴンだ。肉食ドラゴンのグレイス。特に珍しい種類ではないが、気性が荒く、手なずけるのは難しい。
ドラゴンバスターとして、中堅程度の位置にいるランドルですら、グレイスを駆るドラゴンバスターはエディカ以外に聞いたことがなかった。
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「そういえば、どうやってドリーを手なずけたんだ?」
俺はエディカに聞いてみる。ドリーは俺が近づいても平気な様子で頭を差し出してくる。
正直、少しびびった。グレイスを討伐以外でこんなにも近くに見たことがなかったからだ。
「手なずけた、と言いますか、友達になった、と言いますか。割とよくある話ですが、小さい頃に傷ついたドリーを看病してあげて、それから、って感じですかね」
よくある話ではないだろう。確かに、お伽話ではその手のものは後をたたないが、それはフィクションだからだ。現実に狂暴な肉食ドラゴンを手なずけるのは至難どころではない。
現に、俺や他のドラゴンバスターもパートナーとしているドラウンは草食ドラゴンだ。
「皆さん大丈夫でしょうか」
エディカは心配そうに口を開いた。
「お前に心配されなきゃならない奴は、いるにはいるけど、心配には及ばねえよ」
「どっちですか!?」
俺とエディカは、隊と離れた場所にいる。ドリーが肉食ドラゴンだからだ。
ドラウンは隊士が制御しているから大丈夫だとしても、サイドラはグレイスの捕食対象だ。魁として先頭をかっ飛ばしている時はいいが、目的地付近でスピードを落とした時にサイドラが恐慌状態にならないとも限らない。なので、エディカは隊を離れ、俺は新人のお目つけ役として同行しているのだ。
「さあて、俺達は図らずもリロオール山の麓にいるわけだけれど」
「そうですね」
「じゃあ、わかるよな」
「何をですか?」
試験では優秀だったようだが、察しがよくない。
「リロオール山の麓といえば、港町トウィルだろうが」
「港町トウィル?」
世間知らずでもあるようだった。
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トウィルは山と海に挟まれた場所に存在する。
交通という点で不便そうではあるが、実際には海は非常に穏やかで船での航海に適しているし、リロオール山を隔てた向こうはもはや外国で出入りは少ない。国内への移動は道の整備が整っており比較的に楽になっている。
リロオール山を隔てた向こうの国ラスティルとの国境であり、港町でもあるこの町は貿易で非常に栄えており、山の幸、海の幸ともに産地でもあるため、美食の町としても有名である。