旅を重ね
間伊の国の政治は腐敗しているように思えた。
各領地の貴族たちが多くの税を取り、国民の生活は良くならない。
間伊の国では年によって寒暖の差が大きく、作物の収穫量が安定しないため、
不作の年は人民は食べていくのがギリギリ。
豊作の年も収穫の多くを税として取られるため、
国民は豊作の年でも酒や茶を楽しむことなどほとんどできない。
このことを知った、旅人の石館誠は呟いた。
「この国にも改革が必要だな」。
石館は正義感ある人物で、伝説の革命家、石館到の子孫であった。
様々な国を旅する間も貧しい民を救い、欲にまみれた金持ちや貴族を破滅へと導いてきた。
きっとこの国にも新たな風を吹かせることだろう。
石館は間伊の国のおよそ10%の面積を占める、橋宮郡の有力貴族の家に忍び込んだ。
まずは現状を把握することが最優先である。
貴族の家には税金の取り立てに関する書類や、産業や農業などの様々な書類がある。
それらを見ることで現状を把握し、今後の方向性を考える。
残念ながら不作だった一昨年の書類は無いが、近年まれに見る豊作の年である昨年と、
昨年ほどではないがまずまずの豊作だった今年の書類を見つけた。
「冗談だろ?」
石館は驚きを隠せなかった。今年の書類を見ると、少し多めの税を取られている。
だが、昨年は豊作ということもあるが、今年の額とは比較にならないほどの額の税が取られていた。
しかも、その税はほとんど使われていて、ほんの少しの額しか残っていなかった。
これは許せない事態である。通常は貧しい人々と話し合いをし、徐々に状況を改善していき、
貴族や金持ちを反省させて、国を良い方向へと導く。
だが、このような悪政に救いの手など必要ない。
その日のうちに石館は毒を用いて、貴族を殺した。貴族の死体は農民たちの暮らす村に持って行った。
農民たちの顔には笑顔がなく、ほとんどの人が疲れた顔をしている。
村のトップである、村長に死体を引き渡す。
「お前たちから大量の税を取った貴族は殺した。これでお前たちの暮らしは良くなるだろう。」
すると、やつれた顔をしていた村長の顔がパッと明るくなり、村長は涙を流して喜んだ。
「ありがとうございます。我々農民一同でお礼のおもてなしをさせていただきたいのですが・・・」
だが、そんな場合ではなかった。
この橋宮郡のように、貴族の税に苦しむ村や群は数多くあるはずだ。
それらを救うことが自分に与えられた使命であり、なすべきことなのだ、と石館は考えた。
すぐに橋宮郡を発ち、今度は税がもっとも重く、農民が苦しい暮らしをしている溝園群へ向かった。
溝園群での税は橋宮群よりもさらにひどかった。すぐに貴族を殺す必要があると思ったが、
溝園群を支配する貴族の屋敷は厳重な警備によって守られていたため、簡単には侵入できそうにない。
村の人々や、農民たちに状況を聞いたり、作戦を練ったりして半年ほど過ごした。
次第に貴族暗殺のメドが立ち、ついに貴族暗殺を決行する日がきた。
警備がもっとも手薄になる、深夜2時に屋敷の塀を乗り越える。
そのまま足音を立てずに木の影や、倉庫などの近くを通って庭を通過する。
警備の循環ルートは把握してあるため、警備に出会うことは無いはずだった。
だが、屋敷まであと50Mほど、というところで警備とみられる男に見つかった。
「誰だお前は?」
しまった。だが、大きな目標のためには多少の犠牲はつきものだ。
その男の息の根を止めるべく、すぐにナイフを突き刺した。
だが、相手も武器を持っていたようで、ナイフを弾かれ、こちらが体を抑えらてしまった。
「俺は普天間利ってもんだ。お前に説教をしにきた。」
俺のことを知っているような口ぶりだった。質問をしようとしたが、
石館が質問を口に出す前に普天間が話し始める。
「お前は石館誠だな?お前は橋宮群を支配していた貴族を殺した極悪人だ。
おまけに今度は俺まで殺そうとしやがる。」
なるほど。貴族の一味か。貴族が殺されて、貧しい人が救われたのでは貴族どもは困る。
だが、一度も名乗った覚えは無い。
何故、俺が橋宮群の貴族を殺したことを知っているのか疑問だった。
「言っておくが俺は貴族でもないし、貴族に雇われてるわけでもない。
どちらかといえば貴族嫌いの旅人だ。
お前は正義感から、橋宮群の貴族を殺したのかもしれないが、それは大きな間違いだ。
お前が橋宮郡の貴族を殺したせいで、今や橋宮郡は盗賊どもの住処になってる。
善良な農民たちはみんな奴隷として他国に連れていかれたよ。」
「嘘をつくな!」思わず叫んだ。
だが、普天間は話し続ける。
「いいや、嘘じゃないさ。確かに、貴族が重い税金を取っていたから、
農民たちの暮らしは楽なものじゃなかった。
だが、その税金が何に使われていたのかお前は知っているのか?」
「それに関する書類は見つからなかったから知らないが、
自分の財産を肥やすためであろう。彼の屋敷には倉庫も数多くあった。」
「違う。彼は農民から取り立てた財産を決して無駄には使っていなかった。
橋宮群は広大な領地を持っていて、西には戦乱状態になっている白葉の国があった。
広大な領地の治安維持には金がかかるし、戦乱状態で無法地帯と化している白葉の国には
盗賊も数多くいる。それらから民を守るためには莫大な防衛費が必要だったのだ。
確かに、農民の暮らしは苦しかったが、犯罪はほとんどなく、みんな平和に過ごすことができた。
それがお前のせいで一気に崩れ、橋宮群は平和のカケラも無い状態だ。
しかも、お前が勝手に貴族の財産だと思っていた倉庫の数々も、
不作の年に農民が飢えることがないように食料を蓄えているための倉庫だったのだ。」
それを聞いて驚いた俺は声を荒らげた。
「でたらめなことを言うな!」
「だったら橋宮群に行ってみるといい。」
普天間の提案で、橋宮群に行ってみると、想像を絶するような酷い状況だった。
小さな子供たちの死体にハエがたかり、盗賊どもが強奪や暴行をはたらいていた。
遠くのほうにある民家では家を盗賊どもに焼かれ、泣き叫ぶ人々もいた。
「そんな馬鹿な・・・俺は民を救うはずだった・・・」
あまりのショックに倒れこんだ。
「そうだ。お前は民を救うはずだった。だが、考えが浅はかだった。
本当ならぶっ殺してやりてえが、その正義感と行動力には価値がある。
もう一度チャンスをやるから今度は無駄にするな。」
普天間はそう言って、指をパチンと鳴らした。
すると、目が潰れるほどの眩しい光にあたりが包まれ、
気づいたら俺は貴族が殺される前の橋宮群にいた。
やはり、農民は疲れた顔をしているが、盗賊もいないし、強奪や暴行もなかった。
俺は貴族に提案して農業用具の開発に力を注ぎ、不作の年をなるべく少なくした。
また、収穫した作物を少しでも高く売るために、周辺の国々や群と交渉に交渉を重ね、
同じ量の作物でも農民の収入は1,2倍に増えた。
貴族も、それによって増えた0,2倍分の収入には税を取らないこととし、
そのお金で人々は生活にもゆとりができ、定期的に祭りなどの催しも行えるようになった。
さらに、周辺の群も橋宮群のスタイルをもとに、少しずつ豊かになり、国全体が豊かになっていった。
やがて、間伊の国は周辺の国々の中でも、抜きん出て豊かな国となり人々は幸せに暮らした。
初めて書いた、まともな小説です。
一応、ふざけた糞小説を前に書いたことがあるので処女作ではないです。
これからも頑張って書いていきます。