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電気の再発明

作者: 谷 風汰
掲載日:2026/05/18

 夜が来た。

 二人は向かい合う。


「あとちょっとだね」

「もう少し」


 時刻は零時に迎えるその直前。


「どんなだろう」

「さあ、太陽よりは暗いのかな?」


 言葉を交わし、夜の中に佇んでいる。

 二人の心臓は激しさを増し、静けさに抗っている。

 踊っている。


 一人は、ポケットから薄い板を取り出した。

 片手に収まる大きさで、綺麗な長方形だった。

 画面は暗い。 


「おじいちゃんも喜んでくれるかな」

「ええ。100年振りだから」


 一人はそれをポケットにしまう。

 死に絶えた板は、もう、光を取り戻すことはきっとない。

 数十年の眠りを貪り、人類の復興を見守るほかは。


 五分前。

 一人は汗を額に浮かべる。

 一人は手のひらを握りしめ、胸を張り、時代に立ち会う準備を始める。


 蚊が飛んだ。


 一人は振り払う。

 あやうく声を出しそうになったが何とか抑える。

 乱れた息を整えて、正座の姿勢に立ち返る。


「そろそろだ」

「ええ」

「そろそろ……」

「ええ」

「う」

「なに?」

「トイレ」

「えぇ」


 一人はプルプル震えだす。

 両手を股の間に当てる。

 尿道に津波が来ている。


「漏れそう」

「まじ?」

「やばい」

「耐えろ」


 一人は頷く。

 しかし膀胱は膨張。

 猛烈な恐慌。


 汗が噴出し、奥歯がガタガタ震えだす。

 骸骨の笑い声のような歯ぎしりが響く。

 夜の中。


 一分前。

 百年が過ぎた、と思うような数分が過ぎた。


「もう無理!!」

「ちょ」


 一人は立ち上がった。

 走った。

 ドアを蹴飛ばしトイレに向かう。

 床に置いてあった段ボールにつまずき、体勢を崩しかけ、立て直し、廊下を駆け抜ける。

 

 トイレにたどり着く。

 開ける。

 入る。

 下ろす。

 放つ。


「ああ……」


 抑えつけた快感が叫びを上げる。

 全身を行進するように血管中を駆け巡る。


 余白が訪れ、一人は壁を見つめている。

 余韻を感じる。

 歴史よりも現在を感じている。


「やべ!!」


 一人は急いだ。

 ズボンを上げた。

 忘れていた大事なこと。

 歴史に立ち会うそのことを。


「点いた!!!」


 一人の声が聞こえる。

 慌ててドアを開け放つ。

 転げるように飛びだして、息せき切って廊下を走る。


「点いた!! 点いた!!」


 一人の声。

 

 床を見た。

 薄い光が差している。

 ぼんやりとしたかすかな光。

 暖かい。


 一人は部屋に突入した。

 電気が部屋に満ちていた。 

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