電気の再発明
夜が来た。
二人は向かい合う。
「あとちょっとだね」
「もう少し」
時刻は零時に迎えるその直前。
「どんなだろう」
「さあ、太陽よりは暗いのかな?」
言葉を交わし、夜の中に佇んでいる。
二人の心臓は激しさを増し、静けさに抗っている。
踊っている。
一人は、ポケットから薄い板を取り出した。
片手に収まる大きさで、綺麗な長方形だった。
画面は暗い。
「おじいちゃんも喜んでくれるかな」
「ええ。100年振りだから」
一人はそれをポケットにしまう。
死に絶えた板は、もう、光を取り戻すことはきっとない。
数十年の眠りを貪り、人類の復興を見守るほかは。
五分前。
一人は汗を額に浮かべる。
一人は手のひらを握りしめ、胸を張り、時代に立ち会う準備を始める。
蚊が飛んだ。
一人は振り払う。
あやうく声を出しそうになったが何とか抑える。
乱れた息を整えて、正座の姿勢に立ち返る。
「そろそろだ」
「ええ」
「そろそろ……」
「ええ」
「う」
「なに?」
「トイレ」
「えぇ」
一人はプルプル震えだす。
両手を股の間に当てる。
尿道に津波が来ている。
「漏れそう」
「まじ?」
「やばい」
「耐えろ」
一人は頷く。
しかし膀胱は膨張。
猛烈な恐慌。
汗が噴出し、奥歯がガタガタ震えだす。
骸骨の笑い声のような歯ぎしりが響く。
夜の中。
一分前。
百年が過ぎた、と思うような数分が過ぎた。
「もう無理!!」
「ちょ」
一人は立ち上がった。
走った。
ドアを蹴飛ばしトイレに向かう。
床に置いてあった段ボールにつまずき、体勢を崩しかけ、立て直し、廊下を駆け抜ける。
トイレにたどり着く。
開ける。
入る。
下ろす。
放つ。
「ああ……」
抑えつけた快感が叫びを上げる。
全身を行進するように血管中を駆け巡る。
余白が訪れ、一人は壁を見つめている。
余韻を感じる。
歴史よりも現在を感じている。
「やべ!!」
一人は急いだ。
ズボンを上げた。
忘れていた大事なこと。
歴史に立ち会うそのことを。
「点いた!!!」
一人の声が聞こえる。
慌ててドアを開け放つ。
転げるように飛びだして、息せき切って廊下を走る。
「点いた!! 点いた!!」
一人の声。
床を見た。
薄い光が差している。
ぼんやりとしたかすかな光。
暖かい。
一人は部屋に突入した。
電気が部屋に満ちていた。




