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『面倒をみただけでした。』(連載版)  作者: くろめがね


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3/3

第三話 守るという失敗

3話です。

朝は、煙の匂いで始まった。


誰かが火を起こし、誰かが焦がし、誰かが怒鳴った。

村はまだ、静かな朝を思い出せないでいる。


私は水の器を並べていた。

大きいものを後ろに、小さいものを前に。

順番が見える形にするだけで、人は待てる。


背後で声が上がった。


「離せって言ってんだろ!」


振り返ると、大人の男が、子どもの腕を掴んでいた。

配給の袋を巡っての揉め事だった。


子どもは必死にしがみつき、男は苛立ちを隠そうともしない。


一歩、前に出ようとしたときだった。


鎧が先に動いた。


男が立ち上がり、二人の間に割って入る。

まだ傷が塞がりきっていない動きだった。


「やめろ」


低い声だった。

威圧を含んでいた。


掴まれていた子どもが、ぱっと腕を離される。

大人の男の顔色が変わった。


「……なんだお前は」


問いというより、反発だった。


鎧は答えない。

ただ、目を逸らさずに立っている。


空気が張り詰めた。


一瞬で場の温度が下がる。

誰もが、次に何が起きるかを測っている。


私はその間に入った。


「袋は三つ。人は五人」


それだけ言った。


視線が集まる。


「先に子ども。次に怪我人。残りは半分ずつ」


男はまだ何か言いたそうだったが、

計算が先に理解を追い越した。


怒りは、順番に弱い。


「……分かったよ」


舌打ち混じりに、男は手を離した。


子どもが私の後ろに隠れる。

私は何も言わない。


鎧の男は、少し遅れて私を見た。


納得していない顔だった。


「……あれで、いいのか」


「殴らなかった」


「だが」


「怪我人が増えなかった」


それ以上の理由は、いらない。


男は言葉を失い、拳をゆっくりと下ろした。


しばらくして、彼は小さく息を吐いた。


「私は、守ろうとしただけだ」


「知ってる」


「それでも、邪魔だったか」


少しだけ、声が低くなった。


私は水の器を並べ直しながら答えた。


「順番が先」


守ることが悪いとは思わない。

でも、順番より前に出ると、後が崩れる。


男は黙り込んだ。

理解したというより、考え込んでいる顔だった。


昼、彼は子どもたちの輪に混ざった。

ぎこちない手つきで木片を削っている。


誰かが笑い、誰かがからかう。

鎧の男は、慣れない表情でそれに付き合っていた。


私は遠くから見ていた。


守るという行為は、分かりやすい。

だから人は、それを選びやすい。


でも、守られる側は、いつも同じ形を望んでいるわけじゃない。


夕方、彼が近づいてきた。


「……さっきは、悪かった」


謝罪の声だった。

貴族の謝り方ではない。

個人の声だった。


「謝らなくていい」


「だが、君のやり方を乱した」


「すぐ戻った」


それで十分だった。


彼は少し迷ってから、私の隣に座った。

距離は近いが、触れない位置。


「君は、怖くないのか」


「何が」


「怒りだ。あの男は、殴る寸前だった」


「怖いよ」


口にしてから、自分でも少し意外だった。


「……だが、逃げないんだな」


「逃げたら、順番が崩れる」


それだけだった。


彼は何も言わず、しばらく私を見ていた。

重い視線だった。


夜になる頃、風が強くなった。

布がはためき、火が揺れる。


彼は外側に座り直した。

子どもたちを背に庇うような位置だった。


守ろうとしている。

今度は、順番を壊さない形で。


私はそれを見て、少しだけ安心した。


言葉にする必要はなかった。


誤字脱字はお許しください。

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