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『面倒をみただけでした。』(連載版)  作者: くろめがね


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第一話 屋根も残らなかった

戦のあとに残るものは、英雄譚でも復讐でもない。

泣き声と、瓦礫と、片付けきれない順番だけだ。


これは、誰かを導こうとしなかった少女が、

ただ面倒を見続けた結果の話である。

戦が終わった村に、屋根は残らなかった。

柱は折れ、壁は崩れ、焦げた木片があちこちに転がっていた。


残ったのは、人と、泣き声と、数えきれないほどの後始末だけだった。


私は孤児だった。

正確には、孤児になった。


昨日まで母がいて、今日はいない。

それだけの違いだった。


泣く暇はなかった。

泣いたところで、水が増えるわけでも、誰かが戻るわけでもない。


「泣くと喉が渇くから、先に水ね」


そう言いながら、私は木の器を回した。

一番小さい子から。次に、その隣。年上は後。


誰かが文句を言う前に、順番を決める。

それだけで、泣き声は少し小さくなった。


泣き止ませる方法は知らない。

でも、揉めさせない方法なら、分かっていた。


「押さない。溢れるから」


声を荒げる必要はなかった。

事実を言えば、人はだいたい従う。


大人たちは忙しかった。

死体を運び、焼け跡を調べ、次に生きる算段をする。


子どもは後回しになる。

だから、私は前に出た。


前に出たかったわけじゃない。

空いていた場所に、立っただけだ。


泣き声は、夕方になるにつれて増えた。

腹が減り、喉が渇き、眠れなくなる。


人は弱ると、感情が先に出る。

怒鳴る者、責める者、縋る者。

どれも珍しくなかった。


「ここは並ぶ」

「次はあっち」

「怒鳴らなくていい。聞こえてる」


それを繰り返すうちに、

誰かが勝手に動き、誰かが勝手に従うようになった。


私は指示していない。

順番を示しているだけだった。


夕暮れ時、瓦礫の影で、鎧の男を見つけた。


高価な作りだった。

手入れも行き届いている。

身分の低い兵ではない。


男は倒れていた。

息は浅く、血が多い。


「……生きてる」


独り言に返事はない。

放っておけば、夜を越えないと分かった。


助ける理由はなかった。

敵かもしれない。

村を焼いた側かもしれない。


でも、助けない理由もなかった。


「動かないで」


当然、返事はない。


私は近くにいた子に声をかけた。


「水を持ってきて。布も。できれば、きれいなの」


指示は自然に出た。

誰かが走り、誰かが探しに行く。


誰も、理由を聞かなかった。


血を拭き、傷を縛り、息を整える。

手順は分かっていた。


生きるかどうかは、半々だった。


男は三日、眠り続けた。


その間も、村は動いた。

泣き、怒り、諦め、また泣いた。


目を覚ましたとき、

男が最初に見たのは天井ではなく、私だった。


「……ここは」


掠れた声だった。


「生きてる場所」


我ながら雑な答えだと思ったが、

男はなぜか、かすかに笑った。


「君が……助けたのか」


「皆で」


一人の功績にすると、後が面倒になる。

そういうことは、もう分かっていた。


男は名を名乗らなかった。

私も聞かなかった。


必要なことは、他にいくらでもあった。


泣き声は、誰かが抱きしめれば止まるとは限らない。

だが、順番が決まれば、少しは待てる。


面倒を見るという行為は、

特別な才能ではなく、空いた場所に立つことに近い。


それを続けた結果がどうなるのか。

この先で、確かめていく。


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