第5話
買った食べ物を抱えながら二人は足を動かしていると、屋台の列が途切れたスペースを見つける。そこでしゃがんで食べてる人や、段差に座って休んでいる学生がちらほらいる中で、大通りから少し離れた場所の石垣を背に、陽乃と輝樹は買ったものをつまみながら休憩する事にした。
「陽乃、疲れてないか? 気分とか、大丈夫?」
「うん、ありがとう。テルくんは大丈夫?」
ん、と輝樹は頷きながらたこ焼きと焼きそばを袋から取り出し、割り箸を陽乃に手渡す。
「あ。ありがと。たこ焼き熱いから、先テルくん焼きそば食べてていいよ」
「ん、悪い」
「ううん、大丈夫」
存外に綺麗に割れた割り箸で、まだ熱が中に残っているたこ焼きを陽乃は口に運んだ。
「ん、明太子美味しい! 焼きそばはどう?」
「ん。ももおい」
「ふふふ」
手で口を抑えながら、熱そうに食べている輝樹。金髪でガラが悪い見た目である筈なのに、根にある育ちの良さがこうもわかりやすく出てしまうため、そのギャップに陽乃はくすりとさせられるのだった。
「……テルくんも、たこ焼き食べる?」
「あ。うん」
「オッケー。じゃあ……」
猫舌の彼のために、割り箸で穴を開けて中の熱を逃してから、息で更に熱を飛ばす。
「はいっ、どうぞ」
「ん。ありがとう」
焼きそばの蓋の方のパックに、冷ました明太子たこ焼きを乗せる陽乃。美味しそうに味わっている輝樹をよそに、彼女の頭の中は全く別のことで埋め尽くされていた。
「…………」
ズバリ、あーんするかしないか問題。
普通のカップルなら、これくらいは普通にする……らしい。と陽乃は聞いた噂を頭で反芻する。
(キス……までもはいかないにしろ。せめて、これくらいはできた方がいいんじゃないかな……)
そう眉をひそめ迷っていると、あ、と輝樹に呼ばれる。
「陽乃、ちょっと動くなよ……」
「え、どうしたの……ぷぇ」
ソースの感触が口端にすると陽乃が気づいた時には既に、彼のハンカチでそれが拭かれていた。
「たこ焼きのタレ、ちょっと口についてた。ついたままじゃ、勿体無い……からな。その。せっかく可愛くしてきてくれたんだし」
「……っ!」
「あ! ご、ごめん! 一緒に化粧も取れちゃったかな、やべ……今から直したり……ああ、そもそもそういう道具って……」
慣れないことをしたためか、わたわたと落ち着かなくなる輝樹。
「あ、ううん。今くらいじゃ崩れない化粧してきてるから、大丈夫だよ」
陽乃がそう言うと、良かったと輝樹は安堵した様子だった。
(きゅ、急にそういうことして〜〜っ‼︎ ずるいよ、テルくんばっかり……っ‼︎)
対して、陽乃の心の内は安心とか穏やかだとかとの形容とはかけ離れた位置にいた。普段の目つきが鋭いだけに、こういう時にたまに見せる柔らかな視線が本当にずるいと陽乃は内心頭を抱える。
どうにかして、この感情を外に出したい。ないしは、輝樹に返したい。
その方法について思考を巡らせるまでもなく、少し前に考えていたことが答えだった。
「……っ、テルくんさ。まだチーズ味食べてないよね」
「ん? ああ、でももうそろそろ食べようかなって思」
「っ。は、はいっ! あーん……」
「‼︎⁉︎」
輝樹の目の前に、いきなりほかほかのたこ焼きが出現した。
「ひ、陽乃⁉︎ いきなり……」
「はい! あーんっ!」
俯いていて、暗くて見えにくいが、それでも陽乃が真っ赤になっているのがわかる。
なんだか彼女がヤケクソ気味にもなっている気がしないでもないが、とりあえず差し出されたチーズたこ焼きを輝樹は口に含んだ。
「あ、あー。む……ッ‼︎」
「ど、どう……?」
「ふ……っ。う、うまい……」
「よ、良かったぁ……」
(や、やっちゃったぁ〜っ‼︎ あーんしちゃった……‼︎ しかもこんな外で、人がいっぱいいる中でぇ‼︎)
正確には、特に二人に注目している人が彼女らの周りにいるわけでもない。しかし、特に恥ずかしがり屋な陽乃は辺り周辺に人がいるという事実だけで、額から汗が噴き出ていた。
そもそもあげたのはテルくんのぶんのチーズたこ焼きだし、私が作ったやつじゃないんだけど何さっきの⁉︎ 良かったじゃないんだけどぉ‼︎ と陽乃が一人パニックに陥っている一方、輝樹の口の中は悲惨な事になっていた。
「あ、そうだ! お、お口の中火傷してないよね……?」
「う、うん……(嘘)」
今更気づき、確認してくる陽乃に対し男を見せた輝樹。相手を守る時も、必要に応じて嘘をつかなければならない。
輝樹の努力の甲斐あってか、良かった……と陽乃は余計な心配をせず胸を撫で下ろしていた。
「あ。そういえば、飲み物買ってなかったよね! 私、飲み物とデザート買ってくるね! テルくんはそこで荷物見てて……」
陽乃が屋台の通りに戻ろうとすると、輝樹に手を掴まれる。
「……いや、行くなら一緒に行こう。一人で行動するのは、なんかちょっと……その。心配だから」
少し強くなる、握る手の力。彼の視線に、思わず陽乃は顔を伏せた。
「う、うん……」




