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第2話


 「ええ〜っ⁉︎ 付き合ってもうすぐ二ヶ月ちょいなのに、まだ何もしてないってマジ⁉︎」


 「ちょ、ちょっと! 声が大きいよかおるん……!」


 カップの中にあるカフェオレに、薄い波紋が広がる。

 人々が賑わう休日のアウトレット。その地下にあるカフェで、陽乃たちは戦利品であるショッパーに囲まれながら小休止をしていた。


 「え、ていうか何もしてないって、本当に何もしてないの⁉︎ キスとかハグとかもまだってコト?」

 「ふえぇ⁉︎ え、えっとぉ……」


 学年が一つ上の夜葉やばかおるは、お構いなしと言わんばかりに小さいその身を机に乗り出す。


 「……あの。人の関係に他人が外からとやかく言うのはどうかと。それに、自分たちのペースってものがあると思うんですが」


 何かと突っ走りがちな薫に対して、陽乃のクラスメイトである月ヶつきがや美紋みあやがそのブレーキ役に徹する。彼女たちの会話でよく見られる光景だ。

 その中でもホットトピックといえば、なんといっても陽乃の恋バナ。彼女たちは、陽乃の恋愛相談役でもあるのだ。


 「えー。でも二ヶ月だよぉ? そんなに経ってたら普通キスどころか行くとこまでイってるって。ミカちゃんだって付き合って一週間でもう」

 「えっ! そ、そうなの……⁉︎」

 「あやべ、これ秘密にしといてって言われてたんだっけ」

 「はあ……」


 何度目かも知れぬため息を吐きながら、こめかみを抑える美紋。もう既に手遅れではあるが、薫はこれ内緒にしといてね! とウインクを決める。

 高校二年生には見えない薫の身長と幼い雰囲気。そのショートヘアも手伝って、彼女の童顔さは小学生高学年までは行かないにしろ、中学生と言われても全く疑いを持たないほどである。誰に対しても近いその距離感もあり、男女の垣根なく広いコミュニティを持っている。

 一方、隣に座っている美紋はかなり薫とは対照的に見える。漆で塗られたような黒髪のポニーテールを揺らす彼女は、まさしくクールビューティーという言葉がよく似合うだろう。多方面に気が配れるが、その分悩みも絶えない苦労人である。


 「……んで、どうなの! ん?」


 あくまで前のめりの姿勢を崩さない薫。一旦興味のある話題に触れると、しばらく食いついて離さないところがある。


 「……え、えっと。その。そこまではいってないんですけど……こ、この前……」

 「うんうん!」


 「……っ、を……」

 「え、何?」


 「え、ええとぉ……」

 「うんうん!」


 「陽乃ちゃん、ゆっくりでいいからね」

 「あ、う……うん……」


 友達二人の熱視線に思わず目を逸らしてしまう陽乃。陽乃も自分のことを共有したいのではあるが、性格上恥ずかしさの方が勝ってしまい、このように中々言い出せなくなってしまう事は珍しくない。


 その点、薫の躊躇いなく聞いてくる性格はある意味、言い出したくても言い出せない陽乃と合っていると言える。短所と捉えられがちなその行動も、陽乃にとってマイナスではないが故に、調整はしつつも美紋もそれを黙認しているのだ。

 一通りもじもじした後、準備ができたのか少しずつ彼女の口が開く。


 「あ……この前、その。二人で出かけて……そ、その帰りに……えっと……」

 「……」

 「あう……そのぉ……って、手を……繋ぎました……はじめて……」


 おお〜! と歓声が沸く。陽乃の顔は林檎のように真っ赤にはなっていたが、満更でもない様子であった。


 「いいじゃんいいじゃん! 恋人つなぎ?」

 「い、いや……! 普通の、だけど……」

 「えー! じゃあ初歩の初歩じゃんまだ〜〜!」

 「でも、一歩進んだってことだよね。これは中々大きいですよ」

 「え、どっちから繋ごうってなったの!?」

 「な……なんか、自然と……」


 髪をいじりながらも陽乃が告げると、きゃーっ!と本日のお茶会の中で一番の盛り上がりを見せる。


 「えー、いいじゃん! この調子で距離近づけてこーよ! ちょっち遅い気もするけど!」

 「……」


 やっぱり、皆もっと早いのかな。この段階でもっと色々してるのが普通のカップルなのかな、と陽乃の心中に霧がかかる。

 何より、テルくんはどう思ってるのだろうと大きな疑問が彼女の中で湧いた。すると、考えていることを見透かすかのようにその小さな先輩は陽乃の瞳を覗いてきた。


 「……ヒノのんもさ、本当はもっと彼といろんなことしたいんでしょ?」

 「う……」


 自分の口からは、ノーと言えなかった。

 確かに、色々なことはしてみたい。したいのだけど、まだ、恥ずかしさが勝ってしまう。出来たらいいなーって妄想するのが楽しくて、実際にするとなるとまだ心の準備が必要というか。

 とにかく、相手の合意も取れてないし、まだ時間が必要な気が陽乃はするのだ。


 「だ、だからってぇ……」

 「あ、そうだ! 今度行く夏祭りでさ、キスできたらロマンチックじゃない⁉︎」

 「っ⁉︎ っき、キ……ッ⁉︎」


 急に飛び出てくる刺激の強い単語に、陽乃は思わず取り乱してしまう。


 「そうそう! 空に浮かぶ花火を背にさ、顎クイからの『花火じゃなくて、もっとこっち見ろよ……(低音)』みたいなぁ!」


 陽乃の頭が白くなりかけてるのをよそに、独自の乙女ワールドを領域展開する薫。そんな彼女を見ていられなくなったのか、項垂れる頭を右手で支えながら美紋は目を閉じる。


 「ね、いいと思うよね! ね! 美紋ちゃんもそう思うよね!」

 「……。アリかナシかで言えば、アリ寄りのアリですね」

 「美紋ちゃんまで⁉︎」


 顔を覆っている右手の隙間から見えた彼女の眼光は、陽乃が思っているよりも数倍鋭いものであった。この女、親友の恋バナを聴きたいが為に割と高確率で裏切ってくる。 


 「じゃあ今度の花火大会、今日見た浴衣だけじゃなくて、そっちも楽しみにしてるからね!にひひ」

 「え、ええ〜〜っ⁉︎」

 


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