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件2 想い出のビキニ

 私は、三行半の件で、転生したらしい。

 その『件1 私の転生三行半』の文字数、僅か九百十字で。


 転生が分かったのは、私がTSしていたからだ。

 程々にあったバストは筋肉を抱えた丘陵となり、腕も逞しくなっている。

 木の葉で隠すところもイブとアダムが逆転だ。

 吾が身の成り余れる処が気になって仕方がない。

 つまり、若い頃は見慣れた夫の体になっていた。


 顔はどうなったのかと思い、鏡を探す。

 ここは、どうやら西洋風の旅籠のようだ。

 ベッドと少しの飲み物がある。


 香りから、ワインだ。

 下戸だから飲めないけれども、これは使いよう。

 グラスに顔を寄せると、自分が居た。

 この目、この眉、この鼻、ああ、全てが夫となっているではないか。


「柴田美樹くん、割とハンサムだったんだね。でも、オオサンショウウオちゃんとべったりだったから、離婚をしたくなったのかな」


 私は、三行半の文面を思い出して、胸から込み上げてくるものを抑え切れなくなった。


「今、分かった。ずっと溢れてしまうのを我慢していたのは、アナタなのね」


 冷たい涙が頬を伝う。


 ◇◇◇


 三年間の想い出で、一番大好きだったのは、昨年九月の九十九里浜(くじゅうくりはま)だな。

 夏は、美樹くんの仕事が書き入れ時だから何処へも行けないと思っていた。

 けれども、彼は胃痛を訴えて、九月に仕事を休んでくれた。

 もう夏は終わっているのにね。

 それに、貴方は、私の病気に優しかった。


「――温実ちゃん、食べられない病気で痩せたのを気にしているんだろう?」


 薄くなったお腹を突かれた。


「どうして? 薬で太っていたから、三十九キロ位が丁度いいよ」


「俺が、ビキニを見立ててあげようか。一度はワンピース以外のを拝みたかったんだ」


 彼は私の体を引き寄せて、キスを迫ってきた。

 今度は、私が引き締まっていた夫の体にジャブをする。

 その腹筋に、ちょっとメロっときたな。


「もう、バカ言って……」


 ◇◇◇


「あんなこともあったな。もう過去になってしまったけれど」


 私は、ふてくされてベッドに寝転がる。


「オオサンショウウオちゃんと仲良くしていればいいわ! 最高につまらないよ」


 泣いたり怒ったり忙しい。

 くさくさして仕方がない。

 上を向くと、涙は耳に入るんだ。

 へえー。

 トリビアだね。

 

「外に出て、さっぱりとしたいな」


 さて、この世界はどうなっているのやら。

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