件1 私の転生三行半
こんにちは。
ようこそお越しいただきありがとうございます。
幾分かお楽しみいただけたらと思います。
よろしくお願いいたします。
――江戸時代に、夫から妻へ交付される離縁状のことを三行半に書く慣習から、「三行半」と俗称される。
◇
妻とオオサンショウウオを愛した三年間だったメモリー。
俺の愛は終わったと思う熟妻柴田温実の水着フォトグラフ。
そろそろオオサンショウウオの子どもが欲しいエモーション。
キミもひとり歩きを頼む。
◇
「温実ちゃん、俺の詩が分かる?」
私達は、キッチンにいた。
いつも私だけがお茶くみ当番なので、美樹くんには、殆ど期待していない。
人の煎れたお茶が美味しいのは当然だよね。
この、昼は関白、夜は淡泊ときた。
所で何でしょう。
その詩とやら。
美樹くん、よくラノベは読んでいたけど。
わざわざありがとうございます。
半紙に書いてくださって。
ぺらりと見せつけられて手に取った。
平静だったのは一瞬だった。
「ナニコレ! 美樹くん。私への三行半?」
ショックで白目――その刹那、私の心房細動が踊り狂い出し、赤いうさぎも舞い出した。
「はう! 何処かに行っちゃう――」
頭を強く打ったのが分かる。
◇◇◇
どうした、どうした、きんととちゃん。
ポピプ?
可笑しな、可笑しな、温実さん。
そうして、長い暗闇を自由形で泳ぎ続けた。
「どぼに、いぶの? ぶぼぼぼぼ……」
ん?
私は、溺れているの?
不思議と、呼吸が止まらないものだ。
実は、もうショックであの世に逝っていたりして。
「――さん」
「ばい?」
暗さもあってか、声の主が見当たらない。
誰か居るのかな。
えっと、私を呼んだの?
「柴田温実さん、あなたは、メルーナという国に転生します。新しい人生を謳歌してください。ただし、女人と付き合ってはいけませんよ」
「当たり前ですよ。私は腐っても鯛。夫みたいな方がタイプにゃのよー。ぶくぶく」
この暗い暗いプールが気に入ったのかも知れない。
東亀宮町の団地も近隣が生意気にもイルミネーションをするので、キラキラだった。
結婚して、直ぐに越したのだから、もう三年も経つのか。
「では、残念なことになりましたね」
ぶくぶく。
「え?」
残念って、転生を先ず分かっていないですしね。
「又、お会いしましょう。どうしても困ったら、デイジーと三回唱えてください」
あら、上手く名前も言わないのね。
「ぶぼぼぼぼ……」
どんどんと落ちていく感じもある。
本当に柴田温実よ、さようならだわ。