第93話 新装備
ジオードの使いが訪れてから、数日が経った頃のことだった。
ついに、待望の装備が家に届けられた。
「これが……私の新しい鎧なのね……」
ヴィヴィアンは届いた鎧を見つめ、感嘆の声を漏らす。
それは、これまで着ていたスリムな板金鎧とはまったく異なる重厚な全身鎧だった。
角張ったシルエットと無骨な造形は、まるで重量級のゴーレムを思わせる威圧感を放っている。
「なんか……今までのものとはだいぶ違うね……」
隣にいたユークが、驚いたように呟く。
ヴィヴィアンは新しい鎧にそっと手を触れた。鉄の冷たさが指先から伝わってくる。
「……今まで、私はみんなの盾でありたいって思ってきたわ。だけど、あの敵との戦いで気づいてしまったの……今の力では、みんなを守りきれないって」
静かに目を閉じるヴィヴィアンに、ユークは何かを言いかけて言葉を止めた。
最近の戦いは、どうにも格上ばかりだった。それは彼も感じていた事だったからだ。
「それで……この鎧を?」
「そう。エウレさんにお願いして、魔道具や補助機構を組み込んでもらったの。そのせいで少し重くなってしまったけど……今の私なら着こなせるわ」
ヴィヴィアンは拳を握りしめ、再び目を開いた。
その瞳には揺るがぬ決意が宿っている。
「この鎧で……今度こそみんなを守りきってみせる……!」
ヴィヴィアンが力強く言い切ったその時――
「ユーク! ユーク! こっち、見てー!」
セリスが装備を着終えた姿でぴょんぴょん跳ねながら、ユークを呼んでいた。
その様子にヴィヴィアンはふっと微笑む。
「ふふっ、ユーク君。行ってあげて」
「分かった。ありがとう、頼りにしてるよ!」
軽く手を上げて、ユークはセリスの元へ向かう。
「うん、任せてっ!」
背中を見送りながら、ヴィヴィアンは片目をつぶって、明るく応じた。
セリスの元へ行くと、彼女は楽しそうに鏡の前でくるくると回っている。新しい鎧が、よほど気に入ったらしい。
「それがセリスの新しい防具?」
ユークがそう尋ねると、セリスは得意げに両腕を広げて見せた。
「そう! いいでしょー!」
彼女の装備はミスリルで作られた軽量な胸当てと腰鎧。金色の長髪と相まって、まるで戦乙女のようだった。
「うん。セリスによく似合ってるよ」
そう言われたセリスは、嬉しそうに口元をゆるめた。
本来、鎧を買う予定はなかった。けれど、ジオードの援助が入ったことでお金に少し余裕ができて、こうして新しい装備をそろえることができたのだ。
「槍の方はどうだった?」
ユークが問いかけると、セリスは嬉しそうに頷いた。
「まだ! ユークと一緒に開けようと思って!」
そう言って彼女が取り出したのは、高級感の漂う細長い木箱だった。
まるでプレゼントを待ちきれない子供のように、セリスは箱の蓋を開ける。
「うおっ!」
「わあぁ……!」
驚くユークと満面の笑みを浮かべるセリス。
「見て、ユーク!」
セリスは目を輝かせ、声を弾ませた。
中に収められていたのは、名工と名高い鍛冶師の手によって打たれた魔槍。
その名は『ダモルガイト』。
ドラゴンの鱗すら貫くと噂される逸品で、その姿からはただならぬ気配が感じられる。
「ほらほら、ここ見て! 持つ所が真っ黒なんだよ! 刃はうっすら緑に光ってて……すごく綺麗……」
柄には軽量かつ高い耐久性を誇る黒鋼が使われ、槍頭には深緑の魔力鉱石が埋め込まれている。
構えただけで、空気がわずかに震えるような錯覚すら覚えるその槍は、ただの武器とは思えなかった。
「すごい……この子、私の手にぴったり吸い付くみたい……!」
セリスは槍を握ったまま、愛おしそうにその感触を確かめている。まるで、ずっと探していた相棒と巡り会ったかのようだった。
「それは、すごい槍だな……本当に……」
それを見ているユークの声はかすかに震えていた。
そのとき――
「――あっ! アウリン!」
セリスが視線の先に気づき、声を上げる。
階段を降りてきたのは、新しい探索用の服を身にまとったアウリンだった。
「……どう?」
少しだけ頬を赤くして、アウリンが呟いた。
その服は、赤と黒のカラーが美しく調和したトップスに、ふわりと広がるミニスカート。脚には黒いタイツが映えていて、全体的に可憐な印象を与えるデザインだった。
「うん、すごく似合ってるよ……」
ユークが微笑みながら言うと、アウリンの顔がぱっと明るくなる。
「ほ、本当に……?」
照れ隠しなのか、そっぽを向いた彼女に、ユークもつられて笑みを浮かべた。
「もう、あんたも早く着替えてきなさいよ!」
「あっ、うん、わかった!」
促されるまま、ユークも急いで着替えを済ませる。
水色のズボンに白いシャツ、その上に羽織るのは紺のローブ。動きやすく、それでいて落ち着いた印象を与える格好だった。
「ふふっ。あなたもカッコいいわよ!」
アウリンが笑う。
「うん! すごく似合ってる!」
セリスがぺたぺたと新しい服を触りながら褒めてくる。
「私も良いと思うわ〜」
ヴィヴィアンが優しく頷いた。
「そ、そうかな……」
次々と称賛の言葉を受け、ユークは少しだけ頬を赤らめた。
彼とアウリンの装備には、特別な繊維が使用されている。普段は柔らかく、戦闘時には瞬時に硬化して身を守るという、優れた防御機能を備えていた。
こうして、全員の新装備が揃い、パーティー全体の空気が一気に高まる。
「よし! じゃあ、さっそく新装備を試してみよう!」
ユークの声に、全員が力強くうなずいた。
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ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:ようやくこれで探索を再開できる。
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セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:この子ならもうあんなのには負けない!
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アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:ようやく傷も治ったわ。
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ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:この鎧を使いこなせればきっとみんなを守り切れるはずよ!
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