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第92話 メッセンジャー


「私の名前はルチル。あるお方の使いとして参りました」

 赤い鎧に身を包んだ金髪の女騎士が、優雅(ゆうが)に一礼しながらそう名乗った。


「あるお方……?」

 ユークは困ったように首を傾げる。


「はい。我が剣の主、剣聖さまよりの遣いでございます」


「っ! ジオードさ…殿下ですか!? わ、分かりました、どうぞ中へ!」

 動揺しつつも慌てて(まね)き入れるユーク。ルチルは素直に頷き、家の中へと入った。


「それで……殿下からの伝言とは、なんでしょうか」

 ルチルと対面する形でユークが尋ねる。周囲ではアウリンたち仲間がそれぞれ椅子に座り、静かに成り行きを見守っていた。


「まずはこちらをお受け取りください」

 ルチルがそう言って差し出したのは、重厚な木箱だった。

 両手でようやく支えられるほどの大きさに、ユークは思わず息をのむ。


「……これは?」

 受け取りながら、思わず問い返す。


「転移封じの天蓋(てんがい)という魔道具です。中に使い方と効果の詳細を記した紙が入っています」


「な、なんであなたがそれを……!?」

 ユークは驚き、思わず立ち上がってしまう。


「どうかお座りください。これは剣聖さまから、あなたへの贈り物です」

「俺に……?」

 混乱したまま、ユークは隣に座るアウリンに目を向けた。

 彼女もまた、黙って頷いている。


「はい。剣聖さまは、あなたのことを《《ご友人》》とお呼びになりました。何かあったときは助けてやってくれと……そう、おっしゃっておられました」


(俺が……ジオードさんの友人? いや、俺が特別扱いされるのはアウリンの恋人だからだと思ってたけど……)

 ユークの思考が渦を巻く。


「それで、アウリンのことは何かおっしゃってましたか?」

 恐る恐る尋ねると、ルチルは小首を傾げた。


「いえ、優秀な魔法使いだと。それ以上のことは特には」

(……なるほど。あくまで《《俺個人》》への贈り物ってことにしたいのか……)


「ありがとうございます。それで、この魔道具の代金は……?」

 ユークは姿勢を正して礼を述べ、金額を尋ねた。


「お金は必要ありません。その代わり、一つだけお願いがあります」

「お願い……ですか?」


「はい。この魔道具を使って、もし例の人物を追い詰めることができたなら――可能であれば、殺害していただきたいのです」

 一瞬、空気が凍りついた。


「……殺害、ですか」

 ユークの声が低くなる。


「理由を、聞いても……?」


「もちろんです。我がゴルド王国は、これまで多くの剣士系上位ジョブを生み出してきました。私もその一人、上級剣士です。兵士の平均レベルも高く、き――」


「でも、魔法技術の水準は他国より遅れてるのよ」

 ルチルの説明にアウリンが割って入る。


「現代の戦争では、召喚魔道具の保有数と、それを動かすための魔石の備蓄量が国力を左右する時代なの。だから、ゴルド王国にとってはあの博士の技術が他国に渡ると大問題になるのよ」


 ルチルは少し不満げに唇を尖らせたが、それ以上は否定せず、落ち着きを取り戻して話を引き継いだ。


「……そういうことです。召喚モンスターの《《ガワ》》を人にかぶせる技術――あれが商国や帝国に渡れば、確実に国力の差が開いてしまいます。ならば、闇に(ほうむ)ってしまうほうがよいと剣聖さまは判断されました」


 ユークは小さく息を吐いた。

「別に俺としては、あの博士をどうこうって気持ちはないけど……どうして、直接持ってきたんですか?」


「エウレ博士はギルドと繋がっている可能性があるからです。商国や帝国は、必ず彼を捕らえようと動くでしょう。そのとき、この魔道具は非常に重要な存在となります。だからこそ、ギルド経由ではなく、私が直接お届けにあがりました」

 彼女の言葉からは、情報を外に()らさぬようにする意図(いと)明確(めいかく)に読み取れた。


「……分かりました。絶対とは約束できませんが、機会があれば……そのときは引き受けます」

 ユークの表情は(くも)っていたが、その瞳には覚悟がにじんでいた。


「ありがとうございます……」

 ルチルはほっとしたように微笑むと、静かに頭を下げて立ち上がる。


「では、これにて失礼します。私はギルドガードとして部下と共に派遣されておりますので。何かあれば、遠慮なくお声がけください」

 そう言い残し、彼女は家を後にした。


 静かになった室内で、ユークはふと呟いた。

「……もしかして、あのオライトっていう帝国の騎士も博士を捕まえに来たのかな?」


「ありえるわね。でも、私たちは私たちにできることをやればいいのよ」

 アウリンが軽く笑いながら、ユークの背中を手のひらで軽く叩く。


「うわっ、なに急に!」

「殿下の言葉、忘れたの? “可能であれば”って言ってたでしょ?」

 確かに、ジオードの伝言にあった言葉は、命令というよりもお願いに近かった。


「つまり、政治的なことには深入りせず、自分たちの判断で動いていいってこと!」

「……そうなのかな」


「いいのよ。殿下の性格は、ユークだって分かってるでしょ?」

 その一言に、ユークの表情が少しだけ緩んだ。


「……ああ、たしかに」

 背中を押してくれる仲間がいることが、今は何よりの支えだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:どちらにせよ、アイツ(博士)は野放しにしていいヤツじゃない。

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:なんか良くわかんなかった……

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:とりあえずタダで魔道具が手に入ったと思っておけばいいわ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:殿下ったら、アウリンちゃんには甘々ね~

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