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第89話 厄介ごと


「よし、セラフィさんが持ってきてくれた魔道具(マナトレーサー)を、エウレさんのところに返しに行こうか!」

 ユークが(いきお)いよく椅子(いす)から立ち上がった。


「うん、わかった!」

 セリスも即座(そくざ)に反応し、そばに立てかけていた槍を手に取って立ち上がる。


 彼女の槍の穂先(ほさき)は少しだけ欠けていたが、それでも街中でトラブルに巻き込まれる程度なら問題なく対応できるだろう。


「ま、待って! それなら私も行くわ!」

 慌てた様子で声を上げたのはヴィヴィアンだった。くるりと(きびす)を返すと、彼女は二階へ駆け上がっていった。どうやら装備を取りに行ったらしい。


「え!? ちょっと待って!? もしかして、私だけ留守番なの!?」

 アウリンが顔を上げ、驚いたようにテーブルから身を乗り出す。


「おまたせ。ふたりとも、準備はできてる?」

 しばらくして、階段を下りてきたヴィヴィアンは、簡素な革鎧に着替え、髪をポニーテールに結び直している。


「ねぇ、ヴィヴィアン!」

 アウリンが今にも泣きそうな声で言った。


「本当に私だけ留守番なの!? 嘘でしょ!?」

「ごめんね、アウリンちゃん……」

 ヴィヴィアンは申し訳なさそうに微笑みながら、視線をユークへと向ける


「……じゃあ、行ってくるね」

「行ってきまーす!」

「ごめんね! 帰ったらちゃんと埋め合わせするから!」

 気まずそうに目を()らしながら、三人は足早に家を出ていった。


 玄関の扉が閉まった後、静まり返ったリビングにはアウリンひとりだけが残されてしまう。


「……もうっ! 足さえ怪我してなかったら、絶対一緒に行ってたのに……!」

 テーブルに突っ伏したアウリンは、(ほほ)を腕に押し当てながらふてくされた声をこぼす。


 部屋の中に響くのは、彼女の独り言だけだった。


 

 家を出たユークたちは、街の大通りを静かに歩いていた。

「……やっぱり、嫌な空気だな」

 ユークがぽつりとつぶやく。


 普段なら行き交う人々で賑わっているはずのこの通りも、今日は妙に静かだった。

 人影はまばらで、すれ違う者たちも皆どこかうつむきがちで、足早に通り過ぎていく。


「見て……あれ」

 セリスが前を指差し、警戒するように声を落とした。


 視線の先には、同じ形の鎧を着た男たちが、道いっぱいに横一列で歩いていた。

 彼らは笑い声を上げながら通行人に目もくれず、まるでこの通りが自分たちのものだとでも言わんばかりに進んでいる。


「……ちょっと端に寄ろう。ぶつかると厄介だ」

 ユークが小さく(つぶや)き、仲間たちを(うなが)して歩く位置をずらす。


「あの軽鎧……見覚えがあるわ。たぶんアラゴナ商国の兵士ね」

 ヴィヴィアンが控えめな声で言った。


「でも……おかしいわ。胸の印が削られてる」

 ヴィヴィアンが眉をひそめ、唇をきゅっと結ぶ。


「関わるとろくなことにならなそうだな……先を急ごう」

 ユークは低い声でつぶやくと、足取りを速めた。

 その背を追うようにして、仲間たちも無言で歩みを進める。


 だが、運の悪いことに、兵士の一人に目を付けられてしまう。


「おい、お前ら! さっきからなんだその無礼な態度は!」

 怒鳴り声が飛び、ユークたちの足が止まる。


 一人の商国兵士が、明らかに不機嫌そうな顔をして近づいてきた。


「えっと……何のご用でしょうか……?」

 ユークが一歩前に出て、冷静に尋ねる。


「さっきから武器を携帯して、道の端をこそこそと……怪しいな……」

「えぇ……」


 道の真ん中を我が物顔で歩いていたのは彼らだし、探索者が武器を携帯するのは当然のことだった。

 無理のある言いがかりに、ユークは心の中で頭を抱える。


「最近は物騒なんでな。ちょっと話を聞かせてもらおうか」

 そう言った兵士の視線は、ユークを通り越し、セリスとヴィヴィアンへと向けられていた。


「へへへ、なかなかの女を連れてるじゃねぇか……おい、そっちの二人。こっち来な。身体検査もしなきゃならないからな」

 目つきと口ぶりからして、目的は明らかだった。


 ユークの目が細くなる。


「いいですよ。その代わり、ギルドガード本部で話しましょう。そこでなら、きちんと説明できますから」

 あくまで穏やかな口調で提案するユーク。


 だが、それが気に入らなかったのだろう。兵士の顔が一気に険しくなった。


「はぁ!? それじゃ意味ね……いや、俺たちに逆らうつもりか!? なにか後ろめたいことでもあるのか? あ゛あ゛!?」

 怒鳴りながらユークに詰め寄るが、ユークは表情一つ変えなかった。


「無いから、本部で話すって言ってるんですよ……」

 ため息混じりに、疲れた様子で返すユーク。


「……テメェ。俺たちを馬鹿にしてるのか!? なんだその態度は!!」

 ユークの淡々(たんたん)とした対応が(しゃく)(さわ)ったのか、兵士たちはますますヒートアップする。


「何だ何だ」と周囲に人が集まり始め、状況はさらに混乱していく。


(まずいな……逃げるか……)


 この状況で武器を抜けば、完全にこちらが悪者になってしまう。カルミアの一件が頭をよぎり、ユークは逃走の道を計算しはじめる。


 だが、次の瞬間――。


「一体、何をしているのであるか!」

 人だかりの向こうから、空気を震わせるような鋭い声が響いた。


 その声に、商国の兵士たちは身をすくませる。


 ユークたちもその場で顔を上げ、声の主を確認した。


 人波が左右に分かれ、静かに道をあける。その先から現れたのは、きちんと隊列を組んだ四人の兵士。そして、その先頭に立つ一人の老騎士だった。


 兵士たちは黒い革の鎧を着こみ、無駄のない動きで歩いてくる。


 その中で、ただ一人甲冑を着た男が兜を脱いだまま姿を見せていた。灰色の髪を後ろで束ねた、気品と迫力を併せ持つ人物だった。


 ヴィヴィアンが小声で告げる。

「ルナライト帝国の兵士と騎士ね」


 老騎士は、商国の兵士とユークたちの中間に立ち、どちらにも目を配れる位置で静かに立ち止まった。


「まずは、事情を聞かせてもらうのである!」

 重みのある声が、通り全体に静けさをもたらした。


 その様子を見たユークは、心の中で深くため息をはく。

(家、出なきゃよかった……)


 彼は今日、家を出たことを、早くも後悔しはじめていた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.28)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:アズリアさんやダイアスさんに間に入って貰えればって思ったけど、また知らない人が来た……

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セリス(LV.28)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:あの人たち、目つきが嫌。

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アウリン(LV.29)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:暇……

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ヴィヴィアン(LV.28)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:やっぱり面倒ごとになっちゃったわ……

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