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第86話 時間との戦い


「……どうする?」

 ユークはアウリンに問いかけた、答えを分かっている質問を。


「決まってるでしょ。助けない理由なんてないじゃない!」

 アウリンが笑顔で答える、それを見てユークも笑顔になった。


「ユークっ!」

 突然、物陰からセリスが飛び出してきて、勢いのままユークに抱きつく。


「セリス!? え、なんで……どうしてここに!」

 驚きに目を見開いたユークの横で、アウリンも声をあげた。


「まったく……勝手に飛び出して」

 落ち着いた足取りで現れたのは、アズリアとミモルだった。

 どうやら三人一緒に行動していたようだ。


「まあまあ、ラブラブでいいじゃないっスか〜」

 ミモルが肩をすくめ、軽い調子でからかう。


「ユーク、大丈夫? 怪我してない? どこか痛いところない?」


「わっ、ちょ、セリス! 顔近い! く、くすぐったいって!」


 ユークが慌てた声を上げるなか、セリスはその(ほほ)を彼の顔にすり寄せたまま動こうとしなかった。


 いつになく甘えた仕草に、ユークはどうしていいか分からず、そわそわと体を動かす。


「……二人とも、さっきは気を失ってたんじゃなかったの?」

 アウリンが不思議そうに尋ねると、アズリアが少しだけ誇らしげに胸を張る。


「ふっ、それほどヤワじゃないさ……」


「いやー、実際はさっきまで伸びてたんで、カッコいいこと言えないんスけどね〜」

 ミモルが笑って手をひらひらと振った。


 二人の話によると、気絶から目覚めたあと、まだ生きていることに驚きつつ、(おり)や機材の陰に身を隠してユークたちに近づいてきたらしい。


「だが、あのドラゴン相手じゃ手が出せなくてな……だから隠れて様子をうかがっていたんだ」

 アズリアが真剣な表情で言う。


「そしたら、お二人を解放してドラゴンがどっか行っちゃったじゃないっスか。で、“まだしばらく様子を見よう”って言ってたアズリア先輩の言葉を無視して、あの子が勝手に飛び出しちゃったってわけっスよ」

 ミモルが肩をすくめながら、ユークに頬ずりしているセリスをちらりと見る。


「……で、何があったか説明してもらってもいいっスか?」

 ミモルがアウリンに視線を向けた。


 アウリンはこれまでに起きたことを簡潔に説明した。博士が魔族を復活させたこと、(おり)の中の子供たちがモンスターに変えられてしまったこと、倒すと人間の姿に戻ること、そしてダンジョンが崩壊しかけていることも。


「ふざけるな! 子供たちを助けたいなら、モンスターになった彼らを倒せっていうのか……!」

 アズリアが怒りに震え、歯を食いしばる。


「うわぁ……エグいっスね。でも……」

 ミモルがため息をつきながら、部屋の中を見渡す。


 小さなウサギ型のモンスターが何匹も逃げ回っており、その奥ではダイアスが仲間たちと大型モンスターと交戦していた。しかし、それが元は子供かもしれないと考えると、下手に攻撃できず、防戦一方に追い込まれている。


「これだけの数を時間内に全員倒すのは……正直、無理じゃないっスか?」

 ミモルの声が低くなり、遠くを見るような目つきになった。


「それに、崩壊まであとどれくらい猶予があるかも分からない」

 アズリアが重い息を吐き、力なくつぶやいた。


「それなら、おおよその見当はつけられるわ」

 アウリンが指を一本立て、落ち着いた声で言う。


 その様子に、皆が静かに耳を傾けた。


「こっちのダンジョンより、先に侵入した方が本来の主ダンジョンのはず。マナトレーサーも反応してたし、間違いないわ。博士の言ってた“核”っていうのは、たぶん両方のダンジョンに魔力を供給してる装置のこと。もしそれを失えば、魔力の流れが止まって、魔力を大量に消費してるエリアから順に崩壊していく」


 少しだけ言葉を切って、アウリンは真剣な表情のまま続ける。


「でもね、私たちが今いるこの部屋は、おそらくダンジョンの出口に近い。つまり、崩壊が始まっても、ここに届くのは最後になるってこと。それなら、地下の水場に見張りを置いて、あの部屋にある三つの階段のどれかで崩壊が始まったら、すぐに知らせてもらう。そうすれば、私たちはギリギリまでここで動けるはずよ」


「なるほど、そうすれば、崩壊する前に脱出できるってことか……」

 アズリアが納得したように呟いた、その時――


「けど、分かったところでこの数を狩りきるのは容易じゃないっスよ?」

 ミモルが鋭い目つきでアウリンを見る。


「――安心して。私がやるわ」

 一歩、アウリンが前に出た。自信に満ちた眼差しで、仲間たちをゆっくりと見渡す。


「え……?」

 アズリアとミモルが、揃って驚きの声を漏らした。


「私の『フレイムピラー』で、この部屋全体を焼き尽くす。それで終わりよ」

 アウリンの口調は揺らぎなく、決意に満ちていた。


「で、でも……本当にできるんスか? あんな数、全部……」

 ミモルの顔から、いつもの軽さが消えていた。真剣な表情でアウリンを見つめる。


「出来るわ。ただ、すぐに詠唱を始めないと間に合わない。だから……ユーク、後はお願い」

 アウリンはそれだけを言うと、すぐに杖を(かか)げて詠唱を始めた。足元に光が広がり、魔法陣が静かに部屋全体を包み込んでいく。


「分かった。それじゃあ……それぞれ、役割を分担しよう」

 ユークの声は冷静だった。状況を把握し、的確に指示を出し始める。


「セリスとアズリアさんは、脱出路を探してほしい。カルミアが通った扉の先に出口があるはずだ。セリスは隠れた通路を見つけるのが得意だから、アズリアさん、うまく補ってください」


「了解!」

「わかった!」


 ふたりの返事には、迷いがなかった。


「次に、ミモルさん。ダイアスさんたちと連携して、敵の掃討をお願いします。特に大きな個体はアウリンの魔法で倒しきれないかもしれません。最優先で対処を」


「オッケーっス!」


「それからもう一つ、ミモルさん。ヴィヴィアンを呼んできてください。俺はこの辺りを『ストーンウォール』で囲って安全地帯を作る。その入り口の守りを、ヴィヴィアンに任せたい」


「ヴィヴィアンさんっスね? すぐ連れてくるっス!」


「最後に、人間に戻った子どもたちと、戦闘不能の隊員たちはストーンウォールの中に。何よりも安全を優先してください!」


「最後に――人間に戻った子どもたちと、戦闘不能の隊員はストーンウォールの内側へ。全員、安全を最優先で動いてください!」


 ユークの指示が終わるよりも先に、仲間たちは動き出していた。それぞれの役目を胸に刻み、ためらいなく走り出す。


 もう誰も立ち止まってはいなかった。


 ダンジョンの崩壊が迫るなか、子どもたちを救い出せるかどうか。時間との戦いが、いま始まろうとしていた――



◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.25)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:アウリンにこっそり頼まれごとをされている。

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セリス(LV.25)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:ユークがカルミアに(つか)まれている時は気が気では無かった。

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アウリン(LV.26)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:ここまで大規模な魔法は初めてだから緊張している。

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アズリア(LV.30)

性別:女

ジョブ:剣士

スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ストライクエッジ≫

備考:子供が変化したモンスターを倒す役目を与えられなくてホッとしている。

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ミモル(LV.30)

性別:女

ジョブ:双剣士

スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪クロスエッジ≫

備考:もうこうなったら、他の突入チームのことは諦めるしか無いと考え、あまりの損失に頭を痛めている。

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